誰が為に戦うのか




・妃咲と鴇羽ちゃん



七未の合戦。
60年前にこの七未の地で起こった、勝敗がつかなかった合戦。
年が明けてすぐに催されたのは、その七未の合戦だった。
場所も、参加国も、日数も全て同じ――まさしく『再現』されたこの合戦。今回の目的はただ一つ。決着を付けること。
学年もクラスも関係なく将軍を選出し、全体が一丸となって戦う。
妃咲は敵国へ突っ込み、将軍を狙う戦闘部隊へと志願し、同じ学年である真式鴇羽と共に行動していた。



「あのぉ……」

「なんであたしが……」



何とか笑顔を作り、話し掛ける妃咲だが、鴇羽の耳には全く入っていないようで、先程からぶつぶつと呟く声しか返ってこない。
学科は違えど何度か顔を合わせたことのあるこの少女が妃咲は苦手だった。
大抵の人なら仲良くなり、表面上は上手く付き合っていけると自負してる妃咲だが、この真式鴇羽という人物はそうはいかなかった。



「もう! なんで縹と一緒じゃないの!」


鴇羽の苛立ちの原因は縹と離されたものであるのは明白なものであった。
縹というのは、彼女の双子の姉である真式縹のことで、鴇羽の世界は姉である縹を、縹の世界は妹である鴇羽を中心に廻っているといっても過言ではない。それは妃咲だけでなく、誰もが知ってる“常識”であった。
それなのに何故、自分が鴇羽と組んでいるのか……。妃咲自身も納得など出来ず、先程から溜め息ばかりを繰り返していた。



「あの、鴇羽さん」

「気安く名前呼ばないでくれる?」



何とか会話を試みようとした矢先に、敵意丸出しの返事が返ってきた。それを流せる程妃咲も大人にはなりきれてなくて、敵意に敵意を返すことしか出来なかった。


「では真式さん……あ、でもそれだとお姉さんとの区別がつきませんので、真式(妹)さんとでもお呼びしましょうかぁ?」

「うわ、むっかつく! そもそもあんたに縹のこと呼ばせる気ないから!」

「お姉さんお姉さんって、視野が狭すぎません? いつか身を滅ぼしますよぉ?」

「ふん、肉親のいないあんたなんかには一生理解出来ないだろうね」

「身内に依存しないと生きていけない人を理解したいとは思わないですぅ」



売り言葉に買い言葉。互いに引くことなく言葉の暴力を続ける。
暫くそのやり取りを続けながら歩いていた2人だったが、お互いぴたりと口を噤み、ある一点を見つめる。



「どうやら、現れたようね」

「はい。向こうも2人のようですねぇ」



ある程度距離が空いてる為、向こうは気付いていない上に戦闘システムもまだ起動していない。
戦闘システムが発動しない距離まで近付き、相手を観察する。
どうやら相手は夜飛の男子生徒のようで、それぞれ背中に大剣と腰に杖を指している。



「武器から察するに、大剣の方が主な攻撃、杖の方が魔法で援護ってところですね。どうします?」

「どうするって、このまま避けようなんて思ってない?」

「そんな選択肢が存在すると思ってますぅ?」

「逃げるなんて言われたら、始末する相手が変わるだけだ」

「それはこちらも同じです」



お互い武器である刀と鎖鎌を取り出して構える。共闘は初めてだが、不思議と不安はなかった。
何も声掛けはしなかったが、まるで合わせたように妃咲と鴇羽は走り出し、戦闘システムが起動した。



「戦闘……!」

「相手は……女か!」



戦闘システムが起動したことにより、相手の男子生徒2人もすぐに戦闘体制に入るが、先に駆け出した分、妃咲達の方が有利であった。
先行した妃咲が、大剣を構える男子生徒に斬りかかる。すんでのところで回避した相手は、そのまま大剣を横に振り、凪払おうとしてくる。が、得物が大きい分モーションも大きく、避けることは造作もないことだった。



「ちっ!」

「女だと舐めてかかると、痛い目みますよ?」



鴇羽は妃咲の傍を抜け、援護しようと杖を構えてる男子生徒へ小さな雷を落とす。



「あたしがいること、忘れてない? 余所見してると死ぬよ」


間髪入れず数発雷を落とすと、狼狽えた相手へ鎖に付いた分銅を飛ばす。それは相手の頬を掠ったが、今度は怯むことなく魔法で反撃をしてきた。
鴇羽は身を翻して魔法を避けると、一旦距離を取り、鎖鎌の鎖をくるくる回し次の攻撃へ移った。








数十分後。
擦り傷しか負ってない妃咲と鴇羽に比べ、相手二名は立ってるのがやっとの程消耗していた。それでも、向こうにも意地があり、肩で息をしながらも何度も立ち上がってくる。


「っ、まだ、負けてたまるか……!」

「残念ですが、それじゃあ遅すぎます」



異能を使った妃咲は一瞬で相手の懐へ潜り込み、大剣と刀のぶつかる高く鋭い音が響き渡った。
相手の手から離れ弾き飛んだ大剣は、空中で何回転もすると、どすりと鈍い音をたてて地面に突き刺さった。



「だ――」

「余所見してると死ぬよって、言ったよ」



駆け寄ろうとしたもう1人の男子生徒の腕に鎖鎌の鎖が絡まる。鴇羽は容赦無く鎖を引けば、相手の腕はより一層締まり苦しげな呻き声があがる。
血を滲ませながらも抵抗する相手を見て、ふと力を緩めれば、逆方向に力を掛けていた相手はバランスを崩した。その隙を見逃さずに電撃を繰り出せば、その雷は再び腕を襲い、カランと音をたてて杖が転がった。

拾おうとした相手より早く、鴇羽は媒体である杖を足で踏み付ける。



「媒体を壊されたくなければ、大人しく負けを認めることだね」



片足を杖に乗せ、鴇羽は相手を睨みつける。杖を持っていた生徒は、その眼差しに体が竦むが、大剣を持っていた生徒は強気に叫ぶ。


「そんなのただのハッタリだ! いいから突っ込め!」

「媒体ではなく、貴方を壊してもいいんですよ?」

「ふん! やれるものなら……」

「馬鹿にしないでください。本当に大切な者を護る為なら、この手を血に汚すことも容易いです」

「珍しく同意見ね」



妃咲も鴇羽も口元に笑みを浮かべていたが、それは見たものを凍りつかせる冷たい笑みだった。先程まで威勢がよかった相手も当然怯みあがり、唇を強く噛み締め俯く。そして、小さくか細い声で「降参だ」と呟き、リボンを引きちぎった。

戦闘システムは解除され、2人はすごすごと退散していく。
少し甘いかな、と妃咲は思ったが、相手はティアも切れかけで、致命傷はないが再び戦場に立つには手傷を追いすぎている。
先程の言葉に嘘はないが、無意味に手を血で汚したくはない。それもまた本音であった。


「……あたしは、守るべき者を守る為にここにいる。あんたは……」

「きぃにはそんな綺麗な思いはありません。……ないの、です」



最後の言葉は、まるで自分に言い聞かせるように自然にこぼれたものだった。それが聞こえたのか定かではないが、鴇羽はふーん、と相槌を返し、会話は終了した。


男子生徒との戦闘前と違い、何の会話もないままただひたすらに歩みを進めている時だった。
後ろからぱたぱたと軽い音が響き、鴇羽の肩に誰かが飛びかかってきた。



「鴇羽ー!!」

「! 縹!!」



鴇羽と瓜二つの容姿に、訊ねなくとも誰だかわかる。鴇羽の姉である真式縹だ。
戦闘部隊である鴇羽とは違い、縹は偵察班にいたはず。そもそもそれが原因で自分が鴇羽と組むことになったのだから。
首を傾げる妃咲を他所に2人は熱い抱擁を交わしていた。



「わ! どうしたのその怪我! 誰にやられたの!? 鴇羽を傷付ける悪い奴は、ボクが凍らして頭からバリバリ食べてやるんだから!!」

「あたしは大丈夫だから、落ち着いて縹。それより縹は? 1人みたいだけど襲われたりしなかった!?」

「ボクはなんともないよ!」

「あの、真式縹さんは何故ここに? 確か偵察班だったと思うのですが……」

「鴇羽がいないのに偵察なんてしてらんないでしょ! ……てゆーか誰?」

「真式鴇羽さんと一緒に行動してた秋名妃咲です……が、きぃは他班に合流するので、ここからはお二人で行かれては?」



にっこりと満面の笑みで伝えれば、鴇羽も縹もぱぁっと顔を輝かせ、ぎゅうっと抱き合った。



「ホント! やったぁ! 鴇羽ー!」

「ありがとう! ありがとう秋名さん!!」

「いいえ、では、きぃは先に失礼しますね」



妃咲としては漸く離れられて清々すると思っていたのだが、あまりにも素直に感謝され、少したじろぐ。
慌てて取り繕い、再び抱き合う2人から離れる。



『あたしは、守るべき者を守る為にここにいる』



そこに込められた強い想いを少しだけ羨ましいと思いながら。


それでも――



「私は、私の為に戦わないと」





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