まっすぐな太陽
・天音と凪音(天音導入話)
戦争が始まるまで残り一週間になろうとしていた。
一ヶ月前からどきどきわくわくと胸を躍らせていたボクは、ここに来て気持ちが降下しつつあった。
「凪ー、暇ぁ……」
「もうすぐ戦争が始まるっていうのに呑気だな。こないだまであんなに騒いでたじゃねぇか」
「そうなんだけど、はしゃぎすぎて疲れちゃった」
「バカだろ」
部屋の主である凪――千桜 凪音をよそに、ベッドを占領していたボクは、抗議するように足をバタつかせる。
埃立つ!と嗜める凪の声を受け、渋々バタ足を止めた。
「バカじゃないもん!」
「こないだのテストも赤点だった奴が何を言ってんだ」
「そ、それとこれとは別でしょー!!」
喚くボクをよそに、涼しい顔で机に向かっていた凪だったが、くるりと椅子を回転させると、真剣な顔でボクを見つめていた。
「お前は、これからのことを考えねぇのか?」
「これから?」
「はぁー……、戦争のことだよ」
こてんと首を傾げるボクに、凪は心底呆れたように溜め息を吐く。
何故いきなりそんな質問をしてくるのかわからず、益々首を傾げながらも考えるが、
「んんー……、考えてはいるけど、よくわからないし、勝てばいいんじゃない?」
上手く纏まらずにへらっと笑って言えば、凪は眉間に皺を寄せてしまった。
「そんなことでいいのか?」
「いいのか、って言われても……。ほら! ボク強いし、今までの実技演習なら結構いい成績だしてんだよ!」
「お前は…………まぁいいや。じゃあ、久しぶりに力くらべでもするか」
「唐突だねー。でもいいよ!」
ボク達は外へ出ると、いつもの場所へ向かっていった。
「ルールはいつもと同じでいいよね。はい、じゃあ……よーい!!」
お互い距離を取り構える。ボクの声を合図に戦いはスタートした。
*
「3、2、1……どーん!」
「げっ!!」
戦うこと数十分。
ボクの声に反応するように、光の球は破裂し、その衝撃が凪を襲う。
吹っ飛んだ相手に追い打ちをかけるように光の球で囲い、弱い衝撃を与える。
「今日もボクの勝ちかな?」
「今日『は』、だろ!?」
「まあまあ、細かいところはいいじゃん! とにかく! ボクの勝ちだね、凪?」
にこーと笑いながら、媒体である杖を凪の目の前に翳す。凪は眉を顰め、不機嫌オーラ丸出しで睨んでくる。
「まだ降参しねぇって言ったら?」
「んー、殴る」
「物理かよ!」
「この状態で負けを認めないなんて、男が廃るよー!」
杖をぶんぶん振り回して喚けば、凪は深い溜め息を吐いた。それが諦めの合図であることは長い付き合いから容易にわかるので、杖を腰に巻いてるベルトに差すと、うぅーんと伸びをする。
「ふあー、つっかれたあぁっ!!?」
思いっきり伸びて、手を下ろそうとした瞬間、体を押されて後ろへ突き飛ばされる。
「いったーい! 何すん……っ、」
文句を言おうと開いた口は、目の前に向けられた矢を見て、言葉を失った。
ボクにのしかかり矢を構える凪は、いつもと雰囲気が違い、名前を呼ぶのすら躊躇われた。
「な、ぎ……?」
「天音」
「――っ! なに……!」
それでも何とか声を絞り出せば、静かに名前を呼ばれびくりと体が竦んだ。それでも負けたくない一心で強気に返すが、声の震えだけは隠せなかった。
「戦争なんだぞ。今みたいに、『降参です。はい終わり』ってわけにはいかねぇんだ」
「……」
「遊びでも、スポーツでもない。戦争とは、そういうものだ」
凪は矢を消すとボクの上からどき、手を差し伸べてきた。先程の雰囲気は消え、いつもの凪に戻っている。
だけどボクはその手を振り払った。
「そんなのわかってる! でもボクは殺さない!」
「それじゃあ甘いって言ってんだ」
「じゃあ何!? 戦い方を悩んで、相手の隙をついて殺して? それで戦争に勝てれば万々歳!? そんなの間違ってる!!」
ボクは自分で立ち上がると、びしっと凪を指差し叫ぶ。
「ボクはボクのやり方で勝ってみせる!!」
「死ぬぞ」
「卑怯な手を使って勝つぐらいなら、ボクは迷わず死を選ぶ! 凪のバカ!!」
ぷくーと頬を膨らまし、凪を睨みつける。凪はまた溜め息をつくと自分の髪の毛に手を当ててぐしゃりとかき回す。
「悩んでるのは、俺の方か……」
「え?」
「なんでもねぇよ。ほら、もう行こうぜ。アイスでも奢ってやるから」
「!! うわぁいアイスー!!」
凪がそれ以上聞いて欲しくなさそうだったので、深く追求するのは止め、素直にアイスにつられておく。
ボクは絶対に殺さない。その思いは変わらないけど、最後の凪の殺気と恐怖。それも忘れずにいたいと思う。
生き残って、勝つ為に。