第二回公式イベント『精霊捕獲作戦』 鏡ノ葉1




・那由と妃咲



数日前から、王立シャウローラ学園に奇妙な噂が流れているらしい。このカレイドスコープにおいての対戦国だからか、このセナン国立魔法学院内に噂の噂が広まるのはとても早かった。そういった噂には疎い嵐矢 那由でさえも、もう何十回と耳にした話だ。




「シャウローラの噂、どう思う?」

「どうも何も、水鏡まで対策に乗り出したのですから、只事ではないでしょうね」

「まぁ、そうだけど……、妃咲ならそれ以上の情報でも持ってるんじゃないかと思って」

「もう、きぃは情報屋ではないのですよぉ? ……ここでの噂は尾ひれが付いて回るので何処までが本当なのか判断は出来ません」



確かなのは、異能が使えないこと、行方不明者が出ていることくらいです。と言う幼馴染の少女――秋名 妃咲に、ふーんと相槌を打った。



「で、妃咲はどうする?」

「行くに決まってます」



行く――とはシャウローラに派遣される調査部隊のことだ。
今回の噂はただの噂話……では収まらずに、異常事態と判断され、ついには水鏡まで対策に乗り出した。それに伴い、セナンでも調査部隊が作られることとなったのだ。



「参加は個人の自由なのに、物好きだな」

「でも、那由くんも参加するのでしょう?」

「もちろん」



妃咲も那由が参加することを疑ってはいなかったようで、やっぱり……と呟くと小さく笑った。





「で、どうするつもりだ? お前が素直にみんなと一緒に行動するとは思えないんだけど」

「全て、ご想像通りです、と言っておきましょうか」


にこり、と効果音が付きそうなほど良い笑顔で告げた妃咲に、那由はただ深い溜め息を吐くのだった。







数日後、いくつかの班に別れた調査部隊は、それぞれリーダーとなる三年生の指示を受け、王立シャウローラ学園校内へと入っていった。
水鏡からの通達によると、今回の噂の原因は精霊の出現によるものらしい。詳しいことはわからないが、その影響により、異能が使えなくなったりしているようだ。
那由は校内に入ってすぐに異能を使おうと、一点を見つめて発動させた……が、視力があがることはなかった。



「異能が使えないって、本当みたいだな」

「そうみたいですねぇ」



隣にいる妃咲にこそっと告げる。妃咲自身はこの場で試しに使ってみよう、という異能ではないので試してはいないらしいが、那由以外にも異能を試したであろう人たちの反応を見て確信を得ていたらしい。


「では、まず……」

「――何あれ!?」


指示を出そうとした三年の言葉を遮り、誰かが叫んだ。その声につられて後ろを振り向いた那由の目に写ったのは、美しい銀髪をした一人の幼い少年だった。
見た目は3歳くらいの子どもだが、その背中には、人間にはまずないであろう青く透きとおる――


「羽、だ……」


那由がポツリと呟くと同時に、班のメンバーが一斉に少年へと飛び掛かっていった。少年は慌てることもなく、ふわりと羽を揺らして踵を返すと、ぱたぱたと軽い足音を立てて逃げていった。
それにつられるように全員が思うが侭に後を追う。そこにはもう『チームワーク』など存在していなかった。



「待っ――……」

「行きますよ」



追いかけようと足を踏み出した瞬間に、服の裾を引っ張られる。
那由が振り返った時には、妃咲はもう反対側へ走り出していた。



「妃咲! 追わなくていいのか?」

「あれは精霊じゃありません。なら追いかける意味はないですよね?」

「じゃああれは何だ?」

「わからないですけど、区別するなら、妖精――……那由!」


妃咲が名前を叫ぶと同時に那由の足元が赤く光り、ぼわっと火が上がった。
反射的に後ろに飛び退いた那由は、腰のホルダーから銃を抜き構える。
銃口を向けた先には、くすくすと笑う幼い少女がいた。
美しい金髪に、背中には透きとおる羽。先程、少年の背に生えていたものと同じだった。



「妖精……!」



少女の足元へ銃を一発放つ。少女は怯みもせず2人へ攻撃を繰り出してくる。どうやら通す気はないらしい。
幼子相手に少し気が引けるが、那由は銃を少女の身体へと向ける。隣の妃咲も鞘から刀を抜き、戦闘体制を整えていた。








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