図書館企画ブログ | ナノ
「館長殿よ、今回の試験は難しくないか?」
酒場にて、バルトはそう切り出した。試験のために普段よりは出歩く事の多い枝折は、ボトルをラッパ飲みで空けながらにんまりと笑った。
「天下のアガット・イア司書試験だぜェ?」
「例年より、という話だ」
「そんなモン難しくしたし」
仕事中の飲酒については、もう叱るだけ無駄だと判っているのでバルトは何も言わない。肩に乗っていたウサギモドキが小さく鳴いて、外を見る。
「やってるみてェだな」
その方向、数百メートルの先で躍起になって捕獲しようとしている2人組。転じて図書館内。灰のリボンを追いかける2人組。枝折はゆるく目を閉じて、召喚獣と視界を共有する。着実に確実に、迫ってきている。それが判る。枝折は笑みを深くした。
「バルトちゃん、何で見習い生がゴールデンエッグなのか知ってるか?」
「……そのまま、黄金の卵だから、じゃないのか」
「違ェよ」
空いた酒瓶を手に、枝折は目を開いた。カウンターに突き出して新しい酒を頼もうとして、バルトに制される。それからバルトはふてくされた枝折にグラス一杯だけ酒を渡して、続きを促した。
「で、なら何でなんだ」
「簡単だ。ゴールデンエッグはまだ、ヒヨコですらないタマゴだからさ」
酒をめぐる攻防戦に勝ち、もう一杯新しい酒を手にした枝折がにんまりと言う。それから酒をあおって再度、遠くを見るように、あいつらは、と呟いた。
「まだまだタマゴですらねェって事だ。ちったあ難しいのも出しとかねェとな」
けたけたとあまり上品ではない笑い方をして、枝折は席を立つ。もう試験終了まで1時間を切ったところだった。会計は、バルト持ちだったから、そのままドアに手をかける。ふと、その後ろを追いかけるように、バルトが一つ声を投げた。
「今年の受験生は、どうだ、孵化までいきそうか?」
ドアを開けて笑って振り返る。遠く争う音が、静かな街並みにかすか響いていた。枝折は答える。孵化してみせると、人とともにある司書になりたいと、持てる力を尽くしたいと、この街のためにありたいと言った、若者たちを思いながら。
「俺様はそれを、期待してんのさ」
―――――
バルトくんと枝折。
第2試験で皆様にお答え頂いた内容をちょっと盛り込んでたりなかったり。