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Happy Valentica's day




【03:27 p.m.】



 レイベリオは大荷物を背に肩に、雑貨屋の扉を跳ね開けた。

「すみませーんしなびた中年男性(独身)桃垣さんのお宅はこちらでよろしかったでしょうかー」
「……パステルナークさん」

 カウンターに肘をついている桃垣は脱力した呆れ顔を隠しもしない。それを見たレイベリオが、どうしてだか嬉々として荷物を漁る。底のしっかりした深めのトートバックに、その形が歪むほど、何か――正直中身が何かはわかり切っているが、桃垣の男としての矜持的に、今はあえて断定しない――が詰め込まれている。それが2つと、どうやら普段使いらしい、これもなかなかに膨らんでいる肩掛け鞄。漁っているのは後者だ。間を置かずその中から無駄に可愛らしくラッピングされた包みが取り出され、桃垣の目の前に突きつけられる。

「……何ですか?」
「しなびた中年男性かっこ独身かっことじの生活に潤いを、ハッピーウァーレンティカ」
「中年で独身男性って貴方もそうでしょうパステルナークさん」

 レイベリオは突きつけていた包みをカウンターに置き、鼻で笑う。自分が勝者である事を知っている笑顔だった。わざとらしくゆっくりと、肩掛け鞄から畳まれたトートバックを取り出し、それから歪んだ2つの固まりを指し示す。

「まだ、あげると言われた分の、半分程度だ」

 これが知り合いの某研究班員ならブチ切れているな、と桃垣は思った。世の中の男はすべからくこの元先輩に向かってキレていいとも。
 レイベリオはふっと余裕に満ち溢れた笑みを見せる。それからカウンターに置かれた包みを指差した。

「まあとりあえず、お前さんにだ、美人さんから渡してこいってさ。受け取れよ」

 桃垣の口がへの字に曲がる。

「……、パステルナークさん」
「どうした?」
「省略せずに言ってもらえませんか」

 レイベリオはもはや満面の笑みである。

「まあとりあえず、お前さんのようなろくすっぽチョコを貰えないだろうにあがきもしない男たちにだ、カテゴライズは美人さんな館長から渡してこいってさ。受け取れよ」

 因みにろくすっぽの基準は予想チョコゲット数俺の20分の1以下。などとろくでもないことを抜かしているレイベリオは、つまりわんわん(仮)のお手伝いであったらしい。心底ろくでもない。美人の手作りかと思ったか?残念!俺の手作りだ!と、颯爽と立ち去っていくレイベリオの背中を見送りながら、なぜか桃垣の脳内では、拗らせて死ねと連呼している某研究班員の姿が再生されていた。








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