図書館企画ブログ | ナノ





「『心に残る本』特集、か」

 企画書を手にバルトは息を吐いた。

「いいんじゃないか」
「本当ですか」

 雛塢ががばりと顔を上げる。ラジオ局の片隅、会議室という名目のあまり広くない部屋は、半ば倉庫と化しており、壁際にはアンケートの回収箱やあまり使わない機材が雑多に積み上げられている。若干ほこり臭い空気に、バルトが増築と掃除の必要性を感じながら頷いた。

「読書の秋だ。丁度いいだろう」
「はい、そう思って。アンケートを用意したいんですが」
「内容は?」
「企画書の5ページ目です」

 紙の擦れる微かな音が重なる。会議室の円卓を囲んでいるのは、バルトと雛塢とロトだ。草案を見ながらいくつかバルトが指示を出す。一応郵便による投書も受け付けてはいるが、一つの街の中でのローカル放送という性質上、公共施設やスポンサーの店に置かれたアンケートの方が手軽と言えるし投稿も多い。つまり、重要だ。雛塢と共に指示を書き留めながら、ロトが顔を上げる。

「今回は取材無いんですか?」
「あー……別にいいだろう。アンケートで」

 読書好き、という人種の恐ろしさを、かつて司書だったバルトは身を持って知っている。ゲストに呼びでもして、好きな本について語らせたらどうなるか。おそらくと言わず収拾なんかつかないだろう。無論、そこまで極端に書への愛を高らかに叫ぶ人が、そこら中にいるとは思わない。しかし一定量見積もるべきだろう、ここは図書館街である。バルトはそこまで考えて、明らかにしょげて肩を落とすロトを見た。人と喋る事が好きなのだろうな、と、溜め息ひとつ書類を置いた。

「……じゃあお前はスポンサー側にアンケートを置かせて貰えるよう」
「了解しました行ってきます!」

 明らかに生き生きと、ロトは回収箱をひっつかんで出て行った。残された雛塢がバルトを見やる。視線の先で、大きな溜め息がこぼれた。

「…………用紙も出来てないのに、あいつは箱だけ持って何しに行くつもりなんだろうな?」
「……さあ……」
「……回収してくるから、帰ってくるまでにさっき言った所直して、新しい用紙作っておけ」
「わかりました」

 胃のあたりを押さえる上司を、雛塢は同情を含んだ視線で見送る。もはや見慣れつつある光景ではあるが。扉を開けたバルトに、書類をまとめながら声をかけた。

「胃薬とお水、用意しておきましょうか」
「……頼んだ」






―――――
五月さま宅雛塢さま、青吉さま宅ロトさまお借りしました!





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -