図書館企画ブログ | ナノ
「行っちゃったね」
「行っちゃったわ」
双子が真っ暗な公園の中で肩を揺らした。苦笑よりは明るい笑顔で、ぼんやりと発光する影を見る。
「さて、お嬢さん約束は守ったよ」
「時間かかってごめんなさいね、」
幽霊の彼女は、小さく微笑んだ。
彼女が現れた瞬間、色々と限界だったらしいナダドラが泣きながら逃げていった。マルギットはそれに巻き込まれる形で美脚に反応する間もなく首を絞められ引きずられ、刻雨はそれを見送って、痴漢を連行した。徒紫乃もさっさと着替えに消えた。だから今この場には双子と彼女しかいない。
『……騒がせちゃって、申し訳なかったわ』
「いいんだよ!皆なんだかんだで楽しそうだったしね!」
「痴漢も捕まったし!君が気にする事じゃあないわよ!」
『そうかしら』
ふふ、と儚く笑う。首を傾げて、公園を見渡した。時計塔の双子は嘘をついてない。この公園は確かに、彼女が生前唯一出歩く事を許された場所だったのだ。そこに出没する痴漢を彼女は気に病んでいた。しかし幽霊となった身、なにも出来ずにぼんやりと、ただ佇むだけだった。そして、双子はそれを知っていた。
双子はアガット・イアを愛する全てのものの味方であるのだ。幽霊であろうとも。
『…………大丈夫なのね』
「ああ、悪者はもういない」
「ええ、ここはもう安全よ」
漂うように彼女の体が移動する。もう一度儚く微笑んで、彼女の体は薄くなっていく。
「もう行くのかい?」
「行ってしまうの?」
『ええ』
「熱月祭が終わるくらいまで、いればいいのに」
「もうすぐ始まるのよ、まだ、いいでしょう?」
『だめよ』
困ったように眉尻を下げて、彼女は公園を見渡す。
『ここ、お祭りで使うんでしょう?私がいたら、きっと迷惑になってしまうわ』
「……」
「……」
『大丈夫よ、この公園にいっぱいヒトがきて、私あんなにたくさんのヒトを見たのは、初めてだったわ。こんなこと言っちゃいけないんでしょうけど……楽しかった。みんな私をみてびっくりするんですもの』
くすくすと、そこで初めて明るい色で微笑んで、彼女は双子にお辞儀をした。
『だからいいのよ。私は楽しかったわ。だから、みんな、お祭り楽しんでね』
「……約束する」
「ええ、約束よ」
ほとんど消えそうになりながら、彼女は最後に破顔して言った。
『ありがとう』
*
当然のように、その翌日より、幽霊の姿を見たものは現れなかった。真実は闇の中。様々な憶測は流れたが、館長の「もう幽霊は現れない」という鶴の一声により、幽霊騒動は一件落着したものとして、予定通り、公園にてイベントが開催される事となった。