図書館企画ブログ | ナノ







「嘘はついてないよ」
「私たちは一回もね」

拗ねたように唇を尖らせて、ベンチに腰掛ける双子はそう言った。その隣で徒紫乃がベンチの上に胡座をかいて後ろを向いている。着替えさせろとキレていたが先に説明しろという主張にあえなくワンピースのままである。落ち着いて話せる場所をという事で、一行は公園にまで戻ってきていた。肝試しに来ている面々も来ないような、やや奥まった場所にあるベンチのまわりだ。

「で、結局何がしたかったんですか」

3人を見下ろす形で刻雨が心底疲れた声を出した。マルギットとナダドラはいまだのびたままの痴漢を縛り上げている。

「痴漢を捕まえて欲しい、って僕たちも頼まれたんだよ」
「で、私たちの方でも頑張ってたんだけど、生憎とね、」
「痴漢にペドの気はなかったらしくて」
「シヲリに囮になれそうな適任はって」
「きいたら紹介されたのが」
「アダシノだった訳なのね」

徒紫乃は本格的に疲れて来たのか何も言わない。刻雨も疲れているので「そのスカート似合ってますよ」と言ってみる。「お前も穿け」といまだ女の子のままの声で返された。縛り終わったらしいナダドラとマルギットがベンチのそばまで来る。ナダドラがすこし困ったように言った。

「戦闘班に任せて下さいよ」
「俺もそう言いました」
「オンナノコに危ない事やらせられないだろう!」
「アダシノの馬鹿!あと声いい加減戻して頂戴!」

溜め息ひとつ、徒紫乃は普段の声で、「班員の女装は見たくないし、班長はノリノリでやりそうで面白くなさそう、らしいですよ」と捨て鉢に言った。

「真面目な理由だと、夏休みだっただろう、戦闘班も普段忙しいし?」
「夏休みくらい休ませてあげたかったというのもなきにしもあらず?」
「……医療班だって忙しいですよ」
「あと疑問符が嘘臭いですよ」

徒紫乃と刻雨の責める目線に双子は嘘臭く笑った。嘘であるらしい。

「話戻しますけど、だからって、幽霊のフリする事はないでしょう」
「僕たちもそう言った」
「けどアダシノったら」
「職質受けてバレたら死ぬ。市長に知られたら死ぬ」
「って言ってね」
「譲らないもの」

マルギットの呆れた声に、双子もまた呆れた声で応じ、徒紫乃は陰鬱な地を這う声でつぶやいた。スカートのすそをいじりながら徒紫乃が続ける。

「……このあたりに痴漢が出るのは確かだったからな、一般人見たら幽霊の振りしておっかけ回して、追っ払うようにしてたんだ。面倒くさかったしバレたらやだし。ここまででかい噂になるとは思ってなかった。あと幽霊のフリしたら痴漢も逃げるようになるってのは誤算だった」
「徒紫乃君って実は馬鹿でしょう」
「僕たちとしてもね、」
「そこが誤算だったわ」

各方面からの呆れ返った目に、徒紫乃は全力で目を逸らした。真面目な話をすれば、徒紫乃の声帯模写は確かに囮に有効だし、その意味で枝折の人選は間違っていない。幽霊のざんばら髪なら顔も特徴あるツノもごまかせる。しかし枝折の悪ふざけが、徒紫乃と双子にとっては誤算だったのだ。

「待って下さい。それじゃ館長は」
「ああ、全部知ってて肝試しを仕組んだ」

徒紫乃の声はもはや絶望しきってうつろだった。訊いた刻雨と、ナダドラが頭痛がするとばかり額に手をやる。何故かマルギットだけは、「さすが館長様!」と感動していたが。双子がやれやれと肩を竦める。

「迷惑かけてすまなかったね、でも、肝試しがあったから人が増えて目撃者が出て」
「痴漢を捕まえられたのは確か。でも本当にここまで大事にする気はなかったのよ」
「まあ、終わりよければ全てよし!」
「ええ、あのこも喜んでいるわよ!」

にっこりと微笑んで双子はベンチを降り立った。怪訝そうな顔をしている面々に、こくりと首を傾げて続けた。

「アダシノが幽霊として、噂になったのは何故かな?」
「どうして幽霊の行動が2パターンあったのかしら?」
「そもそも僕たちは幽霊のことについて」
「なんであんなに詳しかったのかしら?」
「アダシノだって消えたりはできないよ」
「素地はあった、ここには元々いたのよ」
「僕たちはだね、」
「嘘はつかないわ」

さあて、と芝居がかった仕草で双子は揃って諸手を上げる。2人の背後、現れた白く透ける影が、にこりと笑った気配がした。

「僕たちに痴漢を捕まえるよう!」
「頼んだのはどこのだれかしら!」








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