図書館企画ブログ | ナノ




ナダドラは深い深い溜め息をついた。

『わっ、私、みちゃったんです! 幽霊がっ…!』
『俺も見ました。噂通りの黒髪に白いワンピースの女性でした』
『何でニコくんそんなに冷静なのっ』
 今日の業務中に聞いた話を思い出す。自分も、直接にこそ見ていないが、マルギットが目撃したところに居合わせたし、心霊写真まで見てしまった。噂じゃないのだ。いることは、もう、確かなのだ。ナダドラの足どりは自然に、泥沼にはまったかのようなのろのろしたものになった。今から行くのは肝試しじゃない、肝試しじゃない、と言い聞かせる。時計塔の双子も言っていた。「公園から出ると追いかけてこなくなるよ」と。つまり、そもそも公園に行かなければ、幽霊は出ないのだ。

「えっと…ナダドラさん?」

 飛び上がった。涙をこらえながら慌てて振り向くと、ナダドラの過剰な反応に苦笑しているフォンと、驚いたらしく、フォンの後ろに隠れているノエルがいた。その司書のバッジに胸をなで下ろし、逆に恥ずかしくなってきて口早に「業務班の方…ですよね?」と言った。

「はい。戦闘班でも肝試しですか? お疲れ様です」

 そこまで言われてはっと、ナダドラはノエルを見た。目を逸らされる。ナダドラは少し傷ついた。
 気を取り直してフォンを見る。

「痴漢で手配されてる男の目撃情報があったんです。男性がいるなら安全だとは思いますが……念の為早く図書館に戻って下さい。絶対にはぐれないようにして下さいね」

 フォンは少し驚きながら真剣な面もちでそれを聞き、「わかりました」と頷いた。それから背後のノエルに向き直り宥めるように背中を押す。図書館の方に歩き出したのを見送りながら、ナダドラはふと、フォンに尋ねる。

「肝試しに行ってたんですよね?」
「はい」
「ゆ、幽霊見ました?」

 フォンは少し考えて、笑顔で言った。

「私は見ていませんが、どうやらいたらしいですよ」

 ナダドラは聞くんじゃなかったと後悔した。






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