図書館企画ブログ | ナノ




 暗闇から伸びてきた手に胸を揉まれた。

「……枝折さん」
「驚けよ、つっまんねェの」

 藪の中から登場した枝折はフィズを見てけらけら笑った。噂の公園のそばだ。森が近いせいか緑が多い。昼間見れば安らぎを与えるであろうそれも、闇の中で見ればただ不気味だ。ざわざわとお誂え向きに、生ぬるい風が梢を揺らした。これはなるほど噂も立つだろう、とあたりの木立を見やるフィズに、枝折が言う。

「で? 何してたんだ?」
「様子を見にきたんですよ。皆さん大変そうですし……貴女はどうなんですか」
「遊びに」

 枝折が胸を張って威張る。フィズは小さな溜め息をひとつ、目を伏せた。だいたい、事態がややこしくなる原因は、この館長にあるのだ。面白そうとか楽しそうとかそう言う理由で、あっさり解決できるはずの案件を引っ掻き回す。引っ掻き回した方が落ちるべきところに落ちるので、フィズとしてもあまり強くは言えないのだが。もうひとつ溜め息をついて、毎回毎回毎度毎度事後処理に奔走する業務班の姿を思った。今度は尻を揉まれた。

「そういえばここに痴漢が出るらしいのですが、貴女の事ですか?」
「大丈夫大丈夫」

 何が大丈夫なのかはよくわからない。さらに伸ばされてきた手を避け、フィズは少し距離を取った。枝折はにやついた笑みのまま伸ばした手を戻して組む。

「今回は何を企んでるんです?」
「企んだのは俺様じゃねーよ、一枚噛んじゃいるがな。でもまぁ、言っておくと今夜くらいにもうケリつくぜ」

 どういう事ですか、と問おうとしたフィズを遮るように、どこか遠く、悲鳴が聞こえた。女性の甲高い声。な、と息を吐く。フィズが声の方向に向かおうと身体を反転させたところに、枝折が肩を掴んでにやりと言った。

「手前はいかねェ方がいい」
「どういう事ですか」
「ひみつ」

 今度こそ発された問いに、枝折は答えない。生ぬるい風が、ざわり、木立をかきまぜて渡っていった。






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