図書館企画ブログ | ナノ








 ぱしゃん、と水の弾ける音がした。澄んだ水面に映る夜空の星が、何倍にもなったかのように、きらきら、きらきら、波紋が立つ。円を描いて広がった模様が静かになっていくたびに、また、ぱしゃん。魔法生物が遊び回っているのだろう。提灯や星飾り、通りに居並ぶ七夕飾り。中には、はじめて見るような不思議な光を放つ飾りもあって、青みの強い夜の暗がりを、赤く黄色く溶かしている。それでも普段の賑わしい明るさは、少しばかり減っているように思えた。明る過ぎると星が見えねェだろ、とは館長の言だ。なるほど、と空を見る。街の明かりも届かない暗い夜空、天の川はくっきりとまたたいている。
 リア充に雷落としたいと益体なく物騒な事を考えながら、マルギットは街中に視線を戻した。ふと見知った影を見つけて、思わず声が出る。

「班長!」

 数メートル先にいたヒューロは、ひらひらと片手を上げて、首を傾げる。その元に駆け寄るようにマルギットは足を早め、ヒューロの隣に立った。

「マルギットくん、どうしたの?」
「いえ、用事があった訳じゃないんですけど……班長は何をなさってたんですか?」
「えっとね……」

 ゆったりとした動作で、ヒューロは前方を眺めて腕を上げた。ひんやりとした空気が動き、氷菓子の屋台、その看板を指差す。看板にあげられていたのは、バニラとストロベリーだ。

「どっち買おうかな、って……」
「好きな方にすればいいんじゃないですか?」
「どっちもおいしそうで……」
「……では、どちらも買ったらいかがですか?」
「とめられてるの、一回にたべていいのはひとつまで、って」

 うう、と唸って頭を抱えたヒューロをマルギットはどうしたものかと見やる。

「……三食おなかいっぱいアイス食べたいって、短冊にかいたら、医療班の人に見つかって怒られたし……」
「それはさすがに怒られます」
「どうしよう……」

 真剣に悩む姿は、大好きなおもちゃ2つのどちらかを捨てろと言われた子供のようでもある。割合に我が道を行き、尊敬する人物に対してはある種盲目的になる傾向のあるマルギットは、なんとかしようと悩んだ。考えた。ぱしゃん、とまた水面にさざなみが立つ。マルギットはふっと顔を上げてにこやかにヒューロに向かって言った。

「俺が片方買いますよ! それで分けてあげますから、そしたら両方食べられますし、多分怒られませんよ」
「……いいの?」
「勿論ですよ!」

 ぱあ、と明るくなったヒューロがマルギットの袖を引っ張って屋台に並ぶ。当然のようにマルギットが買ったストロベリーはほぼヒューロの胃に収まったが、まあいいかとマルギットは流した。ツッコミを入れるように、2人が気付かないところで、ぱしゃん。また波が立つ。綺麗な水面の星空は、至極変わりなく、とっぷりと更けていく。


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反省はしてます。





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