図書館企画ブログ | ナノ







 アガット・イアの祭日は、結構な割合で民間委託されている場合が多い。お祭り好きでおおらかな住民達の気質も影響しているのだろうが、噂によれば図書館司書(というか、業務班)の過労死を防ぐ目的もあるのだろう、とまことしやかに囁かれている。噂の真偽はさておいて、とりあえず確かなのは、それだけ祭りが多く、それだけ住民達が祭りの度にはっちゃけ、それだけ業務班が雨の後の雑草並みに死亡フラグを量産して伸ばしているということ。そしてやはり、どれだけ民間に委託されようとも、公共機関たる図書館の仕事は少なからずある、ということだろう。

「まあ、これはその仕事に入らないと思うんですけどね」

 刻雨は赤い短冊片手に頬杖をついて言った。同じような短冊がとビニール袋が、傍らに山と詰まれている。

「何をおっしゃるんですか!未来ある子供たちのための仕事ですさあさあ手を動かして下さい!あと5クラス分残っておりますよ!」

 透明なビニールの袋を丁寧かつ素早くラッピングしては箱詰めにしている。フォンはきらきらしい笑顔のまま手を止める事なくそう言った。ダンボールには『1年1組』から始まるクラスの名前が書かれている。ビニール袋の中身は、幾種類かの短冊と飾り、天階飴だ。フォンの言葉通り、それらはAISの生徒に配布されるものである。不幸にして、昼休みも作業を続けるフォンに捕まった刻雨は、こうして仕事に付き合わされている訳だ。ヌイは軽食を買いに行っている。刻雨は小さく肩をすくめて、袋に詰める作業を再開した。

「ところで刻雨さん」

 フォンがいっぱいになったダンボールに封をしながら、声を落として身を乗り出す。

「一体何があったのですか……」
「……ああ」

 2人の目線の先にあったのは、黙々と輪飾りを作り続ける徒紫乃の姿だ。刻雨と一緒につかまり、仕事を押し付けられたというのに文句のひとつもなく黙々黙々と輪飾りを作り続けている。出来上がった輪飾りはダンボールから溢れて床にまで流れていた。AISの教室に飾る分なのだが、それにしてはちょっと尋常でない量である。

「留学時代の知り合いが来るみたいで、最近ずっとあんな調子ですよ」
「というと……ペンドラゴンの?」
「らしいですね。最近はもう、ステーキにタバスコかけてるし、嫌がらせみたいに辛いカレーを文句も言わず食べてますし、俺が半裸でもスルーですし、勝手に部屋に入っても何も言いませんし」
「あなた方はいつ結婚するんですか?」
「とりあえず、無駄に元気が無いんですよね」

 自分達に対するこのよくわからない期待は何なのか、疑問に思いながら流すことにした。そんな刻雨に、作業を止め、徒紫乃は古い扉が軋むような調子で顔を上げた。目が死んでいる。

「俺はもともとステーキにはタバスコかける」

 言われた刻雨はフォンに目線で訴えかけた。フォンは空笑いをしながら目を逸らす。

「ね、突っ込むポイントがおかしいでしょう」
「そうですね、いつもの徒紫乃さんらしくないといいますか」
「待て俺らしさってツッコミにあるのか」
「ああそういう感じですよ」
「ようやくいつもの徒紫乃さんらしくなって参りましたね!」
「お前らさっきから黙って聞いてりゃというか何が言いたいというか甘口でないとカレー食えない奴は黙ってろ!!」
「中辛も食べられますよ」
「辛口食えないくせに!!」

 論点のずれた言い争いをし出した2人を見て、かるく笑いを貼り付けながら、フォンは滞っていた作業に戻った。丁度そこに、ヌイが戻ってきて入り口で立ち止まり、苦笑しながら首を傾げる。

「フォン君、えっと、あの、2人ともどうしたの…?」
「夫婦喧嘩ですよ、そっとしといて差し上げましょう」

 違う! と徒紫乃がキレて叫んぶ。その後、ヌイが買ってきたカレーパンを食べながら、結局作業で昼休みは全て潰れたという。


―――――

ヌイさまの出番が少くなってしまったのが遺憾の極み





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