ひとりきり | ナノ



(ユートピア篇 2章)




Милые бранятся
только тешатся.







「……おはようございま」
「Доброе утро!!」

 エイベルは朝から何となくしていた嫌な予感が当たった事に、放物線を描きながら気づいた。顎の鋭い痛みに思い当たった時にはその数倍の衝撃が腰に走る。
 生まれも育ちもアガット・イアだが、彼のオリジンは北方にある。その地方の挨拶と共に掌底で顎を打ち抜いたレイベリオは、ヤンキーが土下座のまま逃げそうな目つきで、倒れたエイベルを冷たく見下ろしていた。エイベルには状況がちょっとよくわからなかった。嫌な予感というか、予想は、当たったようだが。

「……いきなり何しやがる!」
「ねぇカルたんなんでお前いんの? なんで遠征に行ってないの? 馬鹿拗らせて脳細胞死にそうなの? 死んでるの?」

 レイベリオは起き上がろうとしたエイベルの鳩尾を器用に踏みつけ、踵をねじ込む。それから深々と溜め息を吐き出し、腰に手をあてて小馬鹿にするような笑みを浮かべた。エイベルが蛙の潰れたような声を上げ、それでも力の限り食ってかかる。

「う、るッせぇ! 死んでたらここにも来てねぇよッつーか退きやがれ!!」
「馬鹿拗らせてんのは否定しねぇの、自覚あんのはいい事だけどな」

 腰に引っ掛けていた人差し指を自分の顎に這わせて小首を傾げる。いくらレイベリオが(エイベルとしては大変悔しいが客観的事実として)イケメンカテゴリに入るとしても中年である。おっさんである。その仕草には怖気がした。鳥肌を立てて怯んだエイベルをとどめとばかり蹴りつけ、レイベリオは「それで」と続ける。

「何で行かなかった?」
「……仕事が終わんなかったんだよ」
「だろうな」

 力強く鼻で笑い捨てて、レイベリオは拳を握りこんだ。殴られる事を覚悟して身構える。そんな方面にばかり場慣れしてしまった自分がちょっとだけ悲しかった。エイベルが一瞬だけ遠い目をして、その視界の端の拳がゆるくほどかれるのを認めて、弾かれたように顔を上げる。余裕綽々といった笑顔を浮かべたレイベリオがしゃがみこんで視線を合わせた。

「なぁカルたん。お前がしなきゃいけない事は本当にそれなのか? 今からでも遅くないんじゃないのか、男を見せろよ。お前にはやるべき事があるだろう?なぁ、」
「おっさん……」

 レイベリオが優しく肩を叩く。エイベルは驚いた。度肝を抜かれたと言っていいほどだ。慈愛に似た色が見え隠れするかんばせに、体中の痛みを忘れてうっかりほだされそうになる。
 通りすがりのリザルドが、煙草をふかしながらやれやれと首を振った。

「おい、ちょっと本音で喋ってみろ」
「仕事ならどう考えても明らかに俺がした方が早いだろやっといてやるからカルたんユートピア行ってノエルちゃんの盾になってこい」
「信じたオレが馬鹿だったチキショー!!」

 エイベルはレイベリオが爆笑する声をBGMにその場から懸命に逃げた。逃げながら、ちょっとだけ泣いた。








(喧嘩するほどなんとやら)
(Доброе〜=おはようございます)(りょうやさま宅リザルドさま、408さま宅エイベルさま、名前だけ花さま宅ノエルさまお借りしました!/エイベルさまごめんなさい)

11/11/20




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