ひとりきり | ナノ



(秋期試験)




「今年の秋期試験、合格者は無しだぜ。ゴールデンエッグは来期までいなくなる」

 枝折の言葉に、レイベリオは皮肉げに口角を吊り上げた。

「いいのかよ枝折ちゃん、部外者にんな事言っちまって」
「構いやしねェよ。エイベルちゃんだってどーせ判ってたろ」

 カウンターに肘をつき、だらしのない姿勢で、枝折はグラスを空にした。手の仕草ひとつで、バーテンダーが新しいものを枝折の前に差し出す。音量と光量を絞った店内は、薄暗く狭いながらも、調度や雰囲気は上品なものだと見て取れた。レイベリオは薄く微笑んで、手にしたグラスを揺らす。澄んだ音とともに氷がアルコールに溶けて、陽炎のように広がっていく様を眺めていた。
 秋期試験は、AIU卒業生が受けることになる春期試験よりも受験者数が少なくなる傾向にある。受験者の質も、数も、どうしたって劣りがちだ。今年は受験者が例年よりも更に少ないと聞いていたから、もしかしたら、とはレイベリオも思っていたのだ。厳しいアガット・イアの司書試験において珍しい事ではない。少しばかり薄くなった酒に口をつけ、それから息を吐いた。

「マルコが鬼みてぇなツラしてんのが見えるぜ。人手不足もいいとこだ、っつーのに」
「手前が言ってやんなよ、人手不足」
「違ぇねぇ。で?枝折ちゃん」
「んだよ」
「春期の連中はどうなんだよ」

 ふん、と鼻で笑った枝折が酒を煽る。グラスの半ばまで一気に減ったそれに目を眇め、縁を指でなぞる。たっぷり間をもたせてから、枝折は「さあな」とだけ言った。レイベリオが小さく噴き出す。

「部外者には教えられませーん」
「そりゃないぜ枝折ちゃん」
「カルたんの時だって訊かなかったじゃねェか手前」
「そりゃ、あの時はまだあと一年はかかるって思ってたしな」
「へーえ?」
「なんだよ」
「なんでも。何、気になんの?」
「なるね。シンデレラの新入りはみーんな俺の可愛い後輩みたいなもんさ。リトルレッドとマーメイドの方だって、ヒウゼンのご近所さんだっつーじゃねぇか、あいつ凄ぇツラして心配してたぜ?」
「バルトちゃんねェ」

 小気味よいテンポで交わされる応酬の間に、枝折とレイベリオはグラスを空けた。度数の高い酒を、枝折はストレートで、レイベリオはロックで。いつもと変わらぬ酒の席の風景だ。たしなめ役のフィズやバルトは、生憎いなかった。うわばみ2人、加減もせずに杯を交わす。枝折とて、レイベリオとて、先程からのやりとりが本気という訳ではない。肴とばかりに、ダシにされる新人たちの姿を脳裏に、枝折は喉を鳴らして笑う。

「不粋だぜ、エイベルちゃん。答えが判ってる事訊くなんざ悪ィ子だ」

 明るい口調で、また酒を呷る。それを横目に肩をすくめて、違ぇねぇ、とレイベリオはひときわおかしげに笑んでみせた。



Pedagogical Ethica




11/09/18




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