ひとりきり | ナノ



(新人四人組)




 自分の同期は、変だ。ごくごく端的にフォンは結論づける。より範囲を限定するなら、同期4人のうち、自分とヌイを除いた残り2人の関係性が、変だ。個々のパーソナリティは変ではないのか、と訊かれたら、変だと答える他ないが、それにしても、である。

「あなたがたの関係って一体なんなんですか」

 昼食の席、こぼすようにフォンは言った。隣のヌイはそれを聞いて首を傾げ、両手で持ったサンドイッチをもそもそと頬張っている。今は人間に近い姿だが、それでも小動物っぽい。和む。フォンは一通り癒やされたあと、ちらりと問題の2人を見た。刻雨は徒紫乃の弁当箱にせっせと自分のエビチリを詰め込み、徒紫乃は徒紫乃でお返しとばかりせっせとブロッコリーを詰め込んでいた。
 何やってんだ。

「関係?」
「下宿が同じで、同期。ですね」
「だな。おいお前いい加減にしろ食えよ」
「食べたら舌が麻痺するような辛さのエビチリは御免です」
「お前の方には普通のエビチリが入ってた筈だ。もう判らないだろうが全く野菜食え」
「エビチリとブロッコリーの因果関係が見えませんが」

 徒紫乃は面倒臭そうに刻雨から離れたところに弁当箱をよけた。そうしてそれぞれ赤くなった弁当箱と緑になった弁当箱をつつきながら、似たような仕草で首を傾げる。代表して徒紫乃が言った。

「で、何でそんな事を訊く」

 フォンはブラックコーヒー片手に遠い目をしてみせた。オーバーリアクションとも演技ともとれる表情の、解釈は多様で、かつ自由だが、それは今あまり関係がなかった。コーヒーを一口、溜め息をつく。
 変な方の同期2人は、だいたいいつも、こうである。いちゃついてるのかじゃれあってるのか喧嘩してるのか、変な空気を醸しながら、自覚が無い。実情がどうであれ、少なくともフォンの理解の範疇は一足飛びに越えている。訳が判らない。訳が判らないものは姉とか姉とかで充分だと内心でごちて、もう一口コーヒーをすする。

「でも、刻雨君と徒紫乃君って、仲良しだよね」

 へにゃ、とサンドイッチを食べ終わったヌイが無邪気な笑顔を見せる。空気読めてないのか天然なのか、フォンには区別が付かなかったが、和むのでその点はどうでもよかった。フォンの視線に気付いたヌイが、こてんと首を傾げて相好を崩す。和んだ。刻雨がそっちこそどうなんですとか言っていたがフォンには何も聞こえなかった。受け取り拒否してしまえばキャッチボールなど続くべくもない。
 そのやりとりの間、黙して俯き考え込んでいた徒紫乃が、ようやく合点がいったように顔をあげた。

「俺とこれが付き合ってるとかそういう誤解か」
「これって何ですか。あと箸で指さないで下さい行儀の悪い」
「え、付き合ってるの?」

 ヌイが頭上に疑問符を浮かべた。フォンは内心で拍手を送りながら、成り行きを見守る。刻雨と徒紫乃は同時にヌイを見て、しばらく黙り、一瞬だけ視線を交錯させ、それから同時に鼻で笑ってかぶりを振った。

「無いですね」
「無いな」
「しかしここまで誤解されてるともはや清々しいですよ」
「だな。いっそマジで一回くらい付き合っておくかダーリン」
「考えておきますよハニー」

 2人して棒読みでのっぺりと言ったあと、しばらく顔を見合わせてから、刻雨は眉間の皺も深々とこめかみを押さえ、徒紫乃は口元に手を当てえずいた。気持ち悪い、と、揃って低い声を漏らす。
 フォンは乾いた笑みを浮かべた。

「仲が良いことは判りましたので余所でやって下さい」

 言い切って、冷えかかったコーヒーを飲みきる。その頃にはもう、刻雨と徒紫乃は何故か互いの唐揚げを取り合い始めていた。
 何やってんだ。




器用に違えた方向性





(はなぶささま宅フォンさま、入江さま宅ヌイさま、旦那宅刻雨さまお借りしました!)
11/08/23




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