ひとりきり | ナノ



(マルギットさまと徒紫乃)





 夏はいい。マルギットは切に思う。暑いのは真剣に御免被りたいが、それを補って余りある恩恵を男子にもたらす。具体的には女子の露出が増える。ミニスカを作った神に幸いあれ。マルギットはひとり、人混みをぼんやり眺めながら、ストローでコーラフロートのアイスをつついた。ひとり。そう、ひとりで、喫茶店のオープンテラス、である。せっかくの夏休み、と遊びに誘ったヒトたちに、ことごとく用事やら先約やらがあっただけの話。だからぼっちじゃないとマルギットはアイスをつつく。太陽は恨めしく思えるほどさんさんと輝いている。そこかしこにある水路のためか、日陰に入ってさえしまえば、さほど暑くないのが救いと言えば救いだった。爽やかと断ずるには僅かばかり湿気た、それでも心地よい風が吹いている。

「何エロい事考えてそうな顔してるんですセンパイ」

 道路からの声に振り向く。マルギットは少しだけ間を置いてから、がっかりしたとも面倒くさがっているとも何も考えていないともとれる表情で手を上げた。

「……ああ、なんだ先輩ですか……」
「ヒトの顔見るなりなんだとはなんだ」
「先輩に言われたくないですーぅ普段からこの顔ですー」
「普段からエロい事考えてるんですか」
「エロい事を考えるのは男子の責務です」

 徒紫乃は限りなくドン引いた顔をして、実際に半歩さがった。お互いに本気という訳ではない。軽いジャブのようなものだと認識している。言い換えれば挨拶だ。いつもの事である。からん、とマルギットの手元のグラスから氷の崩れる音がした。溶けかかったそれを少しだけ飲んで、マルギットは改めて徒紫乃を見た。そして会った時から疑問だった違和感を指摘する。

「で、何ですかその服」

 徒紫乃は首を傾げてから、納得したように頷いた。袖無しらしいタートルネックは辛うじていいとしても、羽織った薄手のシャツはおおよそ彼らしからぬものだ。明るい灰色のそれは若干サイズが大きいらしく、腕まくりしている。最初の間はそもそもこのせいだ。正直似合うかときかれたら頭を抱えざるをえない。しげしげと珍しいと言わんばかりの目を向けるマルギットに、徒紫乃は少しだけ嫌そうな顔をして言い訳を始める。

「班長に、休みの間にその見るだに暑苦しい服をなんとかしてこいと言われたんだ」
「マーメイドの? あの班長さん暑いの苦手そうですしね」
「ああ、だが俺服は全部あんな感じでだな。それで服借りたら見ての通りなんで、何か買おうと思って」

 マルギットは遠い目をした。なんなんだろう。どこに突っ込もう。とりあえず先輩服の貸し借りできないくらいにわりと潔癖だったはずでしたよね、あたり。あと名前を出さなくても誰に借りたのかわかるのが問題だとかも思わなくもない。

「そんな訳なんでセンパイ、この辺で服売ってるとこないですかね」
「えっと、結婚式の友人代表スピーチならやりますよ」
「何を言ってるのか判らんがとりあえず水路はそこだ頭冷やせついにおかしくなったか」

 徒紫乃は蔑んだ目をした。しっかと水路を指差す彼に、おどけたような曖昧な仕草でマルギットが首を横に振り、肩をすくめる。何かを悟ったなまぬるい笑みを浮かべていた。

「刻雨君に服選んでもらえばいいでしょう」
「あれはあれで用事があるらしいですよ。あとセンパイ言い回しがキモい」
「デートしてきたらいいでしょう」
「よりキモく言い直すな! そんなんだから各方面からフられるんですよ!! 夏休みにひとりで喫茶店なんて可哀想で何も言えませんよセンパイ」
「だったら何も言わないで下さいよ!」

 痛いところを突かれたマルギットが机を叩く。周り中から引かれている事にはふたりともあまり気付いていなかった。それもそれで、いつもの事である。
 徒紫乃が小馬鹿にしたように鼻で笑い、目をすがめる。

「じゃあそれ以外のこと言わせて頂きますが」
「なんですか」
「センパイこそなんなんですかそのお団子頭」
「…………あ、」

 固まったマルギットの手の中、コーラフロートはとっくに、溶けきってどろどろになっていた。





予定は調和させません







(title by ダボスへ)
(塒原さま宅マルギットさま、五月さま宅ザラメさまとamさま宅刻雨さまをお名前だけ、お借りしました!)

11/07/31




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