04. 神櫻


山頂に聳える鳴神大社に辿り着き神櫻の前で深々と頭を下げ御参りする。神の目を所持している私ですらこの社に辿り着くには一苦労だったのだから一般人がどうやって此処まで来るのだろうか疑問に思いながら参拝を終えた後に良く当たると噂の御神籤を引く。気になる恋愛運を見ると一途な想いが愛を深める行動で示せと書かれており顔を顰める。一応両想いとなったがまだ足り無いという事だろうか。一斗さんの姿を思い出し肩を落とすのは一斗さんと裟羅さんの掲示板とのやり取りと久岐忍さんという荒瀧派二番手の美人な女性に声を掛けられた事を思い出す。

裟羅と一斗さんの熱いやり取りを掲示板で見た私は呆然と固まり混乱する頭で整理する。天領奉行を取り締まる九条裟羅さんに敗北した一斗さんは神の目を押収されてしまった為、神の目を取り返す為に再戦を書き込んでいるのは理解しているがあちこちの掲示板で読めば読む程二人の親密な関係が分かり肩を落とし落ち込む。

「裟羅さん美人だもんね・・・」

背が高く艶のある黒髪に豊満な胸元。切れ目に凛とした表情は男女問わず魅了している。天狗と鬼の関係は古くから続いているらしく何かと因縁があるのだろうが傍から見れば親しく思えるやり取りに気持ちがもやもやし苦しくなってしまうのは自分に自身が無いからだろう。私が稲妻に流れ着いたのはごく最近で宵宮に助けられてから長野原花火屋に匿われ偽造書で滞在している。余所者だとバレたら稲妻を追われてしまうのは間違い無いだろう。目立つ鬼族の青年と仲が深まった事で荒瀧派の人達にも情報が耳に入ったのか爛々と目を輝かせながら私に挨拶して来る人達が増えた。久岐忍という女性は荒瀧派の二番手でこの一派を実際に仕切っている優秀な人らしい。荒瀧派は極少数しかいなく訳ありの人が多いらしいので、私が神の目を所持している事や稲妻での所在履歴が無い事情を察した忍さんは一枚の名刺を渡してくれた。

「もしうちの親分が問題を起こしたらいつでも連絡して下さい」
「有難うございます」

真面目で責任感が強く優秀な部下がいる一斗さんはやはり凄い人物なんだと感心する。

「あの・・・私の事は一斗さんに話さないで下さい」
「・・・・・わかりました」

私を稲妻人だと思っている一斗さんに他所の国から来た者だとは話せない。いつ稲妻を出る事になるかわからないけれどそれまで彼と共に過ごしたい。せめて目狩り令さえ終わればと唇を噛み締めると忍さんは私の頬に手を触れさせた。

「親分は純粋な鬼なのでさくらさんの事情を知っても軽蔑したりしないです」
「・・・そうですね・・・でも私は怖くて嫌なんです」

戦争の国にいた記憶を思い出すだけで怒りと悲しみに胸が押し潰されそうになる。業火に燃える地獄の景色を思い出すだけで吐き気が込み上げる。私の両手は深紅に染まっている。忌まわしい記憶を忘れるのは友人の宵宮と一斗さんと共に居る間だけだった。

御籤を折り畳み木の枝に括り付けながら深い溜め息を漏らすと背後から肩を叩かれ慌てて振り向く。気配を感じなかったと動揺しながら視線を上げその人物を見つめるとその美貌に息を呑む。長い桃色の髪が風に揺れ怪しげな微笑を浮かべていた。

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