03. 桜舞う


何度か長野原花火屋に顔を出すがさくらの姿が無く落胆する。酒に溺れて年端も行かぬ少女に対してセクハラをしてしまった事を思い出す度に嘆いたり頬を真っ赤に染め上げ藻掻いていると荒瀧派の連中に奇妙な者を見る目付きで避けられる。

「何でこうなったんだー!?」

頭を抱えながら虚しく叫ぶ。目狩り令の対象となった俺様は天領奉行を率いる天狗野郎に敗北し神の目を押収されてしまった。岩元素を用いなくても俺様はヒルチャールやスライム等の雑魚には負けはしないが、神の目を取られないようにさくらと約束してばかりだったのに。

「まぁ神の目が無くとも俺様自身何にも変わってねぇからなぁ」

神の目を押収された者の多くは願いを失い廃人となるらしいが俺様は元々破天荒な傾奇者だ。その日を面白可笑しく過ごせればそれで良い。気掛かりなのは天領奉行に敗北した俺様の事を知ったらさくらは更に俺様から距離を取るのでは無いのだろうか。顔だけでも見たいが花見坂周辺を探しても所在が分からず途方に暮れる。掲示板を見つけたので天狗野郎に再戦を挑むと書き殴っているも返事は特に無い。どうしたものかいっその事神の目が保管されているであろう女神像を破壊するかと考え込んでいた時にこちらに駆け寄って来る足音に気付く。

「カブトムシ相撲でもするか・・・」

餓鬼共だろうと振り返った瞬間に華奢な身体の少女が俺様の筋肉質の身体に勢い良く抱きついて来た。

「な・・・っ!?」

突然の事に驚き素頓狂な声を漏らす。桜色の髪をした少女が俺様の胸元に顔を埋め声を押し殺して泣いていた。

「神の目盗られたんですか・・・?」
「あ・・・ぁ、でも俺様はいつもと変わらねぇぜ」

笑みを見せるとさくらは顔を上げる。宝石のように綺麗な深紅の瞳が揺れて涙が零れ落ちるのを人差し指で拭う。凶暴な鬼族は人間から忌み嫌われている。俺様は少しでも鬼族の偏見が無くなるように人里に降り交流していたが、赤の他人が俺様の事で気に掛け泣いてくれたのは初めての事で動揺してしまった。普段と変わらず体調も万全だと話すとさくらは安堵の息を漏らし微笑を浮かべる。心優しき少女を目の前にし一瞬肩を揺らす。恥ずかしがりながらも内心は嬉しい気持ちが込み上げて来るのを抑えきれず、さくらの腕を引っ張り物陰に隠れる。膝を曲げて視線を合わせ、片手で顎を持ちそのまま口付ける。

「・・・んっ」

嫌がる素振りも見せず甘い吐息を漏らすさくらの口の中に舌を入れると熱が籠もった舌と絡み合う。くちゅくちゅと唾液が絡まる音が響き渡る。息が苦しくなったのか俺様の胸元を軽く叩き始めたので名残惜しいが唇を離すとさくらは頬を赤く染めながら荒い息を漏らす。

「一斗さん・・・私」
「好きだぜさくら」
「ーーーっ!・・・私もです」

満面の笑みで想いを告げるとさくらは恥ずかしがりながら頷く。俺様は壊れないように華奢な少女の身体を抱き締めた。 

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