02. 泥酔者
※微裏
あの日以来、荒瀧一斗という鬼族の青年の大声を聞く度に心臓の鼓動が速くなるのは何故なのだろう。彼は大の勝負好きでよく子供達と遊んでいるが、勝負で賭けたお菓子は容赦なく持って行く姿は負けず嫌いの餓鬼だ。好き勝手に過ごしモラが尽きたら日雇いで稼ぐ暮らしをしている彼は稼いだモラで酒を浴びたのか顔を真っ赤にしながら視線が揺らぎ酔っぱらいながら宵宮と私が居た長野原花火屋に転がり込んできた。
「おーう!元気にしてたか餓鬼共」
「きゃ!?」
「お酒くっさー!呑み過ぎやでぇ」
一斗さんが私の背中に抱き付いて来た為に驚き声を漏らしてしまった。そのまま首筋に頭を擦り付けて来た為に心臓が高鳴り身震いする。彼の長い髪が私の肌に触れるとふわふわして気持ちが良いのは毎日の手入れを怠っていないからだろう。
「あ゛ぁ!頭が痛ぇ」
「く、苦しい・・・です」
容赦無く抱き締めて来る彼の腕力は測り知れない。このままでは抱き潰されると危惧した宵宮は立ち上がり木の桶を持って外に行ってしまった。
「冷水持って来るさかい待っててやさくら!」
「あ・・・有難う宵宮」
駆け足で井戸に向かう宵宮に感謝しながら酔っぱらいの鬼から逃げ出そうと必死に藻掻くも足掻けば足掻く程抱き締める力が強くなる。
「逃げんなよ〜さくら・・・ガハハハッ」
「酔っぱらい鬼ぃ・・・」
突然笑い始める鬼に対して頭に来た私は炎元素の火球掌に出し顔面にお見舞いしてあげようかと考えたが愛らしい笑い顔を目の前にし固まる。意地悪されている筈なのに抵抗出来ずにその鬼が可愛いと思ってしまっている私はかなり頭が可笑しい。彼はそのまま背後から私のお腹を触ったりして羞恥心から頬を赤く染める。
「なんだこれ・・・餅か〜」
「ーっ!?」
着物の上から胸を触られ揉み解される。酔っぱらっているから餅だと勘違いされているようだがわざとでは無いかと疑ってしまう。
「餅じゃな・・・いです・・・ん」
「んまそうだなぁ」
耐え切れず声を漏らすと一斗さんは私の身体を自分の方へと寄せ乱れた着物を剥ぐと胸の突起に喰らいついた。
「ひゃあ!?」
「あ・・・ん」
鋭い八重歯と熱い舌が突起を触れ舐められると身体に電流が走る。
「駄目ぇ・・・あっ!」
片方の胸を揉まれもう片方は吸われ身体がビクビクと震え始める。
「もう駄目一斗さん・・・っ」
「んぁ・・・?」
下半身が疼くもっと触れて欲しいと淫乱になり彼の頬に手を触れさせた瞬間に甲高い声が響き渡った。
「何してんや!この変態鬼ぃ!!?」
「うわぁーーー!!」
「きゃ!?」
宵宮は桶に汲んで来た冷水を一斗に向けて放つも至近距離にいた私にも掛かってしまう。唾液と冷水にまみれた私は唖然とし呆然としていた頭が冴えて来て我に返る。慌てて乱れた着物を直し胸元を隠すと酔が覚めた一斗は濡れた長い髪を震る。
「何すんだ・・・よ」
「っ!」
「どうしたさくら?そんなに濡れて服をはだけさせて」
目の前にいる彼は酔が覚めたのか呆然と私を見つめる。恥ずかしい私は彼に返答出来ず視線を逸らすと宵宮が容赦無く鬼の頭を殴った。
「あんたが犯したんやろうがぁ!」
「痛えぇぇええ!!?」
「止めて宵宮!暴力は駄目だよ」
慌てて宵宮を静止させると一斗は叩かれた頭を撫でながら酔っぱらった後の事を思い出そうとしているようだ。
「あ゛ぁ?・・・確か餅を食べようとして」
「っ!思い出しちゃ駄目です!」
恥ずかしくなった私は涙目で叫びその場を駆け足で逃げ出す。暫くの間、私は彼を避け続け彼が神の目を天領奉行に負け奪われた事を知るのに数日掛かったのだった。
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