01. 凶暴な鬼


長野原花火屋の店主、宵宮と共に他愛の無い話をしながらお菓子を摘んでいると何やら外が騒がしい。友人との楽しいひと時を邪魔され眉を顰める。

「また騒いでるみたいやなぁ」
「・・・また?」

宵宮の後を追うと桜が舞う橋の上にその人物はいた。長い銀髪が風に靡く。筋肉隆々で長身の男性の額には鬼の角が生えており目を奪われた。その姿は風のように猛々しく雷のように眩い。初めて鬼族を見た私は呆気に取られていると宵宮は腕を回しながら鬼族の青年に近付き声を掛けた。

「餓鬼大将は俺って決まってるんだよ!」
「やれやれうちも負けてられへんなぁ」
「え・・・ちょっと宵宮」

私を他所に宵宮と鬼族の青年はとっ掴み合いを始めてしまった。これは稲妻で流行っている相撲だ。体格差では鬼族の青年が圧倒的有利だが宵宮の腕力は底知れない。毎日弓の弦を弾き遥か彼方にいるヒルチャールや鳥を射抜く事が可能だからだ。どちらかが押し負けてしまえば終わりだがなかなか勝負が決まらない。その試合を間近で見ていた私は胸が高鳴った。いつの間にか周囲に子供達が観戦に来ており熱気に包まれる。

「花火と玩具を作れるからって子供達の機嫌を取りやがって!」
「ならあんたも作ってみいや!」
「俺様にそんな器用な事が出来る訳ねぇだろ!お前に脚光を浴びさせる訳には行かねぇ!餓鬼大将は俺様って決まってるんだ!」

ぐぬぬと二人が歪み合っていると騒ぎを聞き付けた天領奉行が駆けつけて来た。

「やっばぁ!」
「ちくしょう!邪魔すんじゃねぇ!!」

鬼族の青年は何処からか真紅に染まった大剣を取り出すと天領奉行の人達を一撃で倒す。

「凄い・・・」
「まともに戦ったらうちの負けやろなぁ・・・今の内に逃げるで」
「待って宵宮!」

騒ぎを起こしたのは鬼族の青年だが天領奉行も横暴で大袈裟だ。この騒ぎに乗じて青年の持つ岩元素の神の目を没収する気なのだろう。青年の背後を取り、容赦無く槍を突き立てようとしていた天領奉行に対して私は神の目の元素力を用いて火球を飛ばす。

「うわぁ!?」

火の玉が直撃した天領奉行の姿を見た青年は目を見開き驚いているようだ。

「なんだ今のは・・・」
「今の内に逃げましょう!」

咄嗟に鬼族の青年の手を掴み、宵宮と共に走り出す。しつこく追いかけて来る天領奉行の人達に対して道を火の海にすると慌ててその場に留まり私達の追跡を止めた。
階段を駆け降り暫く走る。白狐の野まで逃走すると宵宮は息を切らせながら芝生の上に寝転んだ。

「もう駄目や・・・疲れたぁ」
「そう・・・だね」

天領奉行の姿が見えなくなり安堵の息を吐くと肩を掴まれ青年が顔を寄せる。鋭い眼力に息を呑む。

「・・・なんで俺様を助けた?」
「何でって・・・貴方が天領奉行に捕まりそうだったから」

天領奉行に捕まれば牢屋に入れられ処罰を受ける。雷電将軍が目指す永遠の為に間違い無く神の目も没収されるだろう。

「神の目を盗られた者の末路を・・私は知っているの」

願いを奪われ抜け殻となり廃人になる。その姿を見た事がある私は酷く怯えながら応えた。

「貴方もきっとそう・・・」
「ならねぇ!」

私の言葉を遮り、青年は乱れた髪を櫛で整え始めた。

「俺様は荒瀧一斗!お前は」
「私は・・・さくら」
「良く聞けさくら!俺様の名は既に四方に知れ渡ってる!荒瀧唯我独尊一斗!荒瀧土俵鬼王一斗!荒瀧鬼族の誇り一斗!荒瀧鬼カブトムシ剣闘士一斗!荒瀧負けても良いが負けを認めぬ漢の中の漢一斗!これらは全て俺様の通り名だ。どれか好きなのを選んで呼んでくれて構わねぇぜ!」
「・・・・・じゃあ面倒だから一斗で」
「短けぇ!?もっと讃えろ俺様を!」

破天荒な人物だと苦笑いを浮かべると宵宮は愉しそうに微笑んだ。

「仲良くなって良かったなぁ」
「別にそういう訳じゃ」
「俺様の子分になりたかったのかぁ!」
「・・・違います」

肩を落とし深い溜め息を吐くと荒瀧と宵宮は顔を見合わせ笑い始める。確かにこの鬼族なら神の目を奪われても平気そうだ。

「それよりお前、さっき炎元素を扱って無かったか?」
「え・・・」
「そやで、さくらはうちと同じで炎元素のヒーラーなんや!あんたも怪我したらさくらに傷を治してもらいや」

宵宮は自慢気に鼻を鳴らす。私は気恥ずかしくなって先程の戦闘で少しばかり傷を負っていた荒瀧の怪我を一瞬で治すと歓声が沸き起こった。

「すげぇじゃねぇか!」
「せやろせやろ♪さくらに感謝しぃや」
「医者に行くモラも尽きてたから助かったぜ」

荒瀧は満面の笑みで私の頭を撫でる。荒々しくて豪快だったが何故か嫌じゃなく顔が熱くなってきた。

「もういいです・・・っ」
「怪我したらお前の所に厄介になりに来るぜ!」
「怪我しないように気を付けて下さいね・・・一斗さん」

緊張して視線を合わせられない私の姿を見た宵宮は何かに勘付いたのか怪しい笑みを浮かべていた。

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