
暗闇の中、目を覚ますと小さな少女ーーーユウナの姿が見える。
雪のように白い肌と紺色の髪が窓から差し込む月の光でキラキラと輝いている。
髪に触ると指をすり抜けた。
『・・・ん』
小さく声を漏らす。その声を聞いただけで胸が高鳴る。
「・・・・・ユウナ」
生まれて初めてこんな感情を抱いた。
一生を掛けて大事にすると誓った少女の身体を抱き締め額に唇を触れさせる。
異世界から来たというが外見は普通の少女だ。
色白で華奢な身体にボブカットの髪が可愛らしさを引き立てている。
身長は俺たち家族より低いが本来この身長が一般的だ。
小さいながらも真面目で優しくやや頑固な所が魅力的だった。
少し前にペロス兄から貰ったユウナの手配書と一枚の写真をシャーロットと書かれたジャケットのポケットから取り出す。
頭にベレー帽を被り、軽装な黒を基調とした衣装を身に纏っている頂上戦争での写真だ。
プラズマ団という組織の幹部をしていたらしいという情報を聞いたが詳しいことはわからなかった。
幹部の地位にいるということは重要な仕事や部下への指示、自ら危険な仕事をしていたに違いがない。
直接本人に聞いてみたが口を割ることはなかった。
写真をポケットに戻し、すうすうと寝息を立てて寝ているユウナの頬に触れる。
夫婦になったのだから全てを知りたいと思うのはおこがましい事なのだろうがユウナの事をもっと知りたいと思う気持ちが日に日に増してきていた。
少しずつ会話を増やそうと努力をしているがなかなか上手くいかない日々に思わず溜め息が漏れる。
小さく暖かい身体を優しく抱き締めながら再び深い眠りに落ちた。
広大なベッドに横になり、身体を休めているとプルルルルと音が聞こえてくる。
ゆっくりと目を開けると共に夜を過ごしたユウナはおれの腕からすり抜け、慌てて起き上がり、近くにあったバスタオルを身体に巻き付けて鞄の中を漁っていた。
『ホロキャスター・・・』
ユウナの呟きと手に持っている小さな腕時計のような機器。
どうやら異世界の物らしくそれで通話をしているようだ。
電波で交信する電伝虫はより優れていそうだ。
モンスターボールという魔獣をしまう道具に通信電話機器・・・さぞ文明が進んでいることが伺える。
今度ユウナ専用の電伝虫を用意するかと考えているとユウナは『・・・ナオ?』と呟き頭を傾げた。
どうやら電話の相手はナオという人物からのようだ。
名前から察するに女のようだが・・・。
ユウナに限って浮気は無いだろうと考える。
何せ今のユウナはほとんどの記憶を失いホールケーキ城で匿っているのだから。
電話に出ようとしたユウナに一応「・・・・・知り合いからか?」と訊ねると肩を揺らしこちらを振り向いた。
『・・・ッ!は、はい。出ても良いですか?』
「あァ」
見聞色で少し先の未来が見えた。
部屋から出てナオという人物と電話をするようだ。
未来通り、おれが許可するとユウナは微笑み、ベランダに出て鍵を閉めた。
どうやら話の内容を聞かれては困るらしい。
どんな相手からなのか話の内容は…と気になり、ベッドから起き上がり裸だったため普段着を身に付け、壁に寄りかかりユウナの声に耳を傾ける。
ピッと通話ボタンを押すと「やっと出たァ〜!!」と甲高い声がこちらまで響き渡った。ナオという少女からの電話のようでほっと安心するとユウナの不機嫌そうな声が壁越しに聞こえた。
『だ・・・誰ですか?・・・・・・ナオ・・・?ポケモントレーナーなんですかッ!?』
どうやら同じトレーナー同士であり友人か仲間のようだ。
この世界に迷い込んだ異世界人はユウナだけではないらしい。
別の魔獣使いとも一度会ってみたいと考えていると『・・・記憶喪失なんです』と切ない声に胸を痛める。
記憶が戻ればユウナはここから去るのでは無いかという不安に駆られた。
『ワノ国・・・』
その言葉に目を見張る。
ワノ国は偉大なる航路"新世界"にある世界政府未加盟国の事だ。
他所物を受けつけない鎖国国家として知られ、侍と呼ばれる剣士達の力と立地条件により外敵を一切寄せ付けない強国と言われている。
記憶を失ったユウナはこの世界の事を知らないはずだ。
とすれば電話の主はワノ国から掛けているのだろうかと考え込んでいるとユウナは『ピカチュウ!?』と奇妙な言葉を口にした。
聞いたことのない言葉に頭を傾げていると
『ナオさん、何が可笑しいんですか?〜〜〜・・・ッ!わからないです』
切ない声が聞こえてくる。
壁越しからだとユウナの声しか聞こえず話の内容は想像するしかない。
次に聞こえてきた言葉に息を詰まらせた。
『帰れるの!?』
「ーーーっ!」
その言葉に焦りと困惑が生じる。
異世界に帰れる方法が見つかったという事なのだろうか。
だが別次元の世界に帰るなど途方もない話だ。
悪魔の実の能力や魔獣の力でも無理なのでは無いかと考え込む。
もしかしたらまた記憶喪失になる可能性すら…
『貴方に協力します』
スッと体温が一気に冷えた。
不思議と胸の奥が痛みだす。
協力するということはここから去り、帰る気でいるということだ。
ーーーおれの元から離れるつもりなのか?
共にずっと生きていくつもりだった。
ユウナと一緒ならこんな化け物のようなおれを受け入れておれらしく生きていく事ができると思っていた。
次に聞こえてきたFall、ミミッキュ、シャンデラという言葉に頭を傾げる。
魔獣について話しているのだろうか。
ユウナの事を知った気でいたが、まだまだ謎だらけの少女
ーーーいや、4億2千万ベリーという破格の懸賞金をつけられた超新星だ。
実力はおれより低いがそれでもこの若さでこれ程まで悪名が高く、驚異的な身体能力に未知の魔獣を扱うということを考慮し、少しばかり警戒すべきなのかも知れない。
見聞色の力で少し先の未来を視る。ユウナは通話を終わらせ何事も無かったような表情でこちらに戻ってくる姿が見えた。
おれに何も相談せず自分勝手に行動し、周りを巻き込む小悪魔に対して、重い溜め息を吐いてからシャワールームへと足を運んだ。
羽織っていたジャケットとズボンを脱ぎ、冷たい水を頭から掛ける。
ーーー1人の女に対してここまで真剣になるなんてな。
自嘲気味に笑いぼんやりとした意識の中、再び冷水を頭から掛ける。
身体は酷く重く、浴室にある鏡に視線をやると鏡の中の自分がじっとこちらを見つめていた。
裂けた口元に禍々しい鬼のような無数の牙。
ふとガキの頃にフクロウナギとバカにされたことを思い出し、手で額を押さえる。
ーーーおれは何のために口元を隠し、強い兄を演じてきた?
大切な家族を守るためだ。
そこには愛する妻も存在する。
ならばおれは家族を#name1#を守るために戦おうと決意した。
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