目を覚ますと何故か泣いている。
見ていたはずの夢は思い出せなかった。


広大なベッドを覆う白絹のシーツの上に一糸纏わぬ姿で私の身体は逞しい腕に抱きしめられながら横になっていた。

身体には白い毛布が掛けられ目の前にはカタクリ様の顔と今まで隠していた無数の牙が見える。

『・・・・・カタクリ様』

以前ブリュレさんから聞いた話を思い出す。

「カタクリお兄ちゃんはねェ生まれてこの方一度も背中を地面につけたことがない超人なのよ」

更に、何十年もの間海賊として活動している中で一度たりとも敗北を喫していない無敗の男と呼ばれ、シャーロット家の最高傑作と評されているそうだ。

そんな彼が私に気を許してくれた。
素の姿や本心の一切を隠して生きてきた彼が。



ーーー私は


彼のように全てを打ち明ける事は出来ない。
記憶の大半を失ったとはいえ覚えている事はある。

プラズマ団幹部として、ゲーチス様に遣え他者のポケモンを解放し、伝説のポケモンの力を使い街を凍りづけにした。

沢山の人とポケモンを悲しませ、傷つけた。


この記憶だけは忘れていない。
一番忘れたかった記憶なのに。


ーーー生きていたって仕方がないのに。


過去の過ちは決して消える事はない。
たとえ、自分が忘れても他者は覚えている。


一筋の涙が溢れた落ちた。

私はずっと傍でゲーチス様を支えていたかった。どんな形であれポケモン解放を説いたのは彼だったからだ。

だけどもう二度とゲーチス様と出逢うことは叶わない。
そして、ポケモン解放という夢も叶わない。



私はカタクリ様に過去を知られるのが怖い。
きっと幻滅されるから。



吐き気がこみ上げ、口元に手を当て数回咳をする。

何とか身体を立たせようとした瞬間、腕を掴まれベッドの中に引き戻された。

『・・・ッ!カタクリ様』

「どこにいく?ユウナ」

『シャワーを浴びようかと・・・』

逞しい胸元に抱き締められ頬を赤らめる。

長身の整った筋肉質の男性の身体には刺青が彫られていた。
髑髏と片翼の刺青の意味は願いは何を想って彫ったのだろうか。

そんな事を考えているとカタクリ様は小さく息を吐いた。

「そうか・・・」

『・・・カタクリ様?』

どこかに行くのではと心配したのだろうか。
私には元の世界に帰る方法も無いというのに。

「・・・何故泣いていたんだ」

『・・・ッ!嫌な夢を見まして』


夢だったらどれ程良かったのだろう。
私の夢は途方もない夢なのだ。
全部忘れてしまえば良かったのに。


口ごもっている私を見たカタクリ様は私の頬に手を当て優しく自身の唇を触れさせた。

『ーーーっ!』

「・・・何か思い出したのか?」

『いえ・・・』

視線を下にやるとカタクリ様は小さく息を吐く。
呆れられ溜め息を吐かれたのだ。

『・・・すみません』

「何故謝る?」

『私が何も話さないから・・・』

「思い出せないだけだろう」


ーーー違う違う違う!


思い出せないんじゃない。言えないだけ。
言いたくないだけ。


ポロポロと涙を流すと彼は私の身体を優しく抱き締めてくれた。

『ごめんなさい』

「・・・」

カタクリ様は黙って優しく私の背中を擦ってくれた。
妹、弟が大勢いるから彼はあやすのが得意なのだろう。


暫く嗚咽を漏らすと落ち着いてきた。

呼吸を整え、恐る恐るカタクリ様の顔を見るといつもしてあるファーは外し、口元を隠さず優しく微笑んでいる。

「落ち着いたか?」

『ーーーはい』


彼は優しすぎる。
優しいから誰からでも慕われ、尊敬され敬われる。
そんな彼が眩しくて目が眩む。


「ずっと傍にいる」

『ーーー有難うございます』

この感情が何なのかはわからない。
知らないふりをしなければ私は壊れてしまうだろう。

「・・・ユウナ」

名前を呼ばれ視線を上げると無数の牙と唇が私の唇に合わさった。

燃えるような赤い瞳で見つめられ、背中がゾクッと震える。
私は小さな声で彼に問う。

『・・・カタクリ様は思い出したくない記憶はありますか?』


ーーー何を聞いているんだろう。
思い出したくない事を思い出させるなんて最低だ。


私は慌てて『すみません!何でも無いです!』と言うと彼は少し考え、口を開いた。

「ガキの頃にフクロウナギと呼ばれた事だな」

『・・・フクロウナギ?』

「知らないか?」

頭を上下に頷かせるとカタクリ様は微笑み「おれみたいなヤツのことだ」と言った。

うーん。フクロウナギが何なのかは良くわからないけれどカタクリ様に似ていて本人は言われて嫌な気持ちになったのだから悪口を言われたのだろう。
(※ユウナはポケモン世界の住人の為フクロウナギを知りません)


「言ったヤツは片っ端から殴り飛ばしたがな」

『さ、流石です・・・』

「・・・そのせいでヤツらは腹いせにブリュレを襲い顔に傷をつけた」

『・・・・・え』

「それからおれは完璧な兄を演じるために口元を隠して生きてきた」

兄妹を守るために口元を隠すこと完璧であることをしてきた事実を知り、胸が張り裂けそうになる。
かなりのストレスになっているに違いない。

『私はカタクリ様が誰よりも優しくて強い事を知っています。怖がったり気味悪がったりしません』

視界に入る両頬に縫われた跡に手を伸ばし触れるとカタクリ様は嫌がらず優しい瞳で此方を見つめ微笑んだ。


ーーードキンッ


胸が大きく鳴った。


この感情に気づいてはいけない。
私は幸せになってはいけない。
一生を掛けてポケモン達に自分の過ちを償わなくてはいけないのだから。


自分に言い聞かせていると名前を呼ばれた。

『カタクリ様は私の事が・・・好きですか?』

「あぁ、好きだ」

『ーーーっ!』

真っ直ぐな視線と返事を聞き、私は驚いた。


好きじゃなきゃ結婚なんてしなかった?
いや、でも前に、おれに拒否権は無いとか言っていたし、これは利益を得る為の政略結婚なのだから。

私がカタクリ様と結婚した理由は自分の身の安全の保証の為。
私は彼に恋愛感情というものは無い。


考え込んでいるとカタクリ様は私の頭を撫でた。

「・・・ユウナはどうだ?」

『え!?・・・勿論、す、好きですよ』

口ごもりながら視線を逸らし誤魔化しながら微笑むと彼は嬉しそうに微笑んでいた。

その純粋な姿に胸が痛む。


え・・・。
本気で私が好きなのかな。
私は好きという感情がわからないのに。


恐る恐る再度問うと「愛してる」と言われて私は心底驚き目を見張る。

『ーーーっ!』

真っ直ぐな言葉に思わず頬を赤らめるとカタクリ様は首元や耳元に口を寄せて優しく噛みついた。

『ん』

「おれはまだまだ食い足りないんだが」

『・・・?お腹が減りましたか?』

食い足りないという言葉の意味を理解できず頭を傾げるとカタクリ様は小さく溜め息を吐き、私の両手を掴み、そのままベッドに押し倒した。

お互いが裸だったことを忘れていて私は顔を真っ赤にさせるとカタクリ様は小さく微笑み「どれだけ愛しているか教えてやる」と耳元で囁いた。

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