「俺は嫌いだよ、君のこと」


え、と息の詰まる悲鳴が聴こえた。
俺の鼓膜を確かに震わせたそれは、なんだかいっそう俺の神経を逆撫でするように全身を突き抜けた。
彼女は頬を恥辱で染め、下を向いて消え入るような小さな声で『ごめんなさい』と言った。
ごめんなさい? 何が?
嗚呼、嫌われるようなことを無意識にしていると考えたのか。
そんなことどうでもいいけど。


「君には悪いけどこういうシチュエーションも嫌いなんだよね。こんな風に昭和の学園ドラマじゃああるまいし体育館裏でさ、愛の告白なんて、考えただけで虫酸が走る。もっと他にあるでしょ? タイミングとかさ」
「あ、」


とん、と体育館の外壁を背に、彼女は睫毛を震わせながら肩を丸めた。
俺は彼女が逃げないようにしっかりと顔の横に手をついて、静かに見下ろす。
黒髪をまとめた橙色のシュシュが夕陽に溶けて綺麗だ。


「……なんで嫌いか知りたくない?」
「え、あう」


コツン、と額を合わせると、彼女のシャンプーの香りがした。
彼女はびくりと肩をいっそう丸めたまま、どうしてこんな状況になっているか判断が出来ないようでいた。
それもそうか。
好きな人に告白してこっぴどく振られて、壁を背にして迫られてるなんて甚だ可笑しいものか。


「知りたいの? 知りたくないの?」
「……し、知りたい。悪いとこあるんなら……直したい、から」


彼女の頬に耳を掠めて囁くと、彼女の肩はいちいちびくりと跳ね上がる。
彼女の手が俺の胸板に添えられて無言の圧力を感じた。
何を拒んでるの?


「君、俺になんかした?」
「……、え?」
「君と話してると動悸が激しくなる。脈拍乱れる。嫌いなんだよ苦しいのは。俺は何にも縛られず生きるのが夢なんだ。その夢、壊さないでくれる? そういうのが嫌い」
「ちょ、っとまっ、て、え?」


額を合わせたまま捲し立てると、彼女が上を向きたがったようなので額を離してやる。
そこには、戸惑いと困惑の色を宿した瞳があった。
相変わらず彼女は壁を背にしていて、夕陽だけは少し傾いていて。


「どういう意味かな……」
「どういう意味って、そのままだけど? 今だって鼓動がばくばくいってる」
「……あ、はは、あれ?」


彼女はとうとう思考回路が閉鎖したようで、うーん、と首を傾げたまま俺を見上げた。


「……君、鈍感だろ」
「え!?」
「君が好きだって言ってるつもりなんだけど」
「え、だって嫌いじゃ……」
「ああ面倒くさいな」


後頭部を押さえて強引に口付けをする。
くそ、どうやっても君の前じゃ心拍数は上がるのか。
心の中でそう悪態をついても、だれも聞いてはいない。


「嫌だった?」
「……う、ううん、びっくりしちゃっただけ……」
「そう、じゃあそういうことだからコレあげる。ブレザーので悪いんだけど」


それ、第2ボタンだから


そう言い残して振り返った彼女には、舞い散る桜の花びらがよく似合っていた。








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