誕生日おめでとう


可愛らしい淡い色をした花柄のカードに刻まれた、綺麗な文字。私の両手に収まった毛糸で編まれたマフラーに添えられたその意味に気が付いたとき、つうと頬を生暖かい滴が伝った。ぎょっとしたような表情を浮かべ、おろおろとしだした目の前の彼に、私の両目からぼろぼろと涙が零れ落ちて止まらなくなった。意味のない音だけを発する喉から、必死に言葉を絞り出す。


「どう、して…私の、誕…生日…」

先輩は、私が一方通行の想いを寄せている相手で、それは今も尚進行形だ。委員会の仕事で一緒になってから、私は彼のことがずっと好きで好きで仕方ない。同じ委員会の後輩ということで、先輩は私の名前を覚えていてくれているし、廊下ですれちがった際に、ぺこりと頭を下げれば、同じように下げ返してくれる程には認識されている。けれど、先輩にとってみれば私はただの後輩。いくら偶然を装って先輩と遭遇してみたり、先輩の誕生日を噂で聞いて、ひっそりと誕生日プレゼントを用意してみたりしても、当然一方通行だ。

そう。そのはず、なのに


「水戸部、先輩…わた、し」

自分に都合のいいように解釈してしまいます。もしかしたら先輩も私と同じ気持ちなんじゃないかって。だからこそ私の誕生日を知っていたんだって。自惚れて、しまいます。でも、そんな勝手な言葉、貴方に言えない。そんな身勝手な自分を、知られたくない。俯いた顔は上げることが出来なかった。ぽたぽた、と。零れ落ち続ける涙が可愛いカードを濡らしていく。

ふっと、息の零れる音が聞こえた。
顔を上げようと動く前に大きな掌が、マフラーごと私の手を包みこむ。それが誰のかなんてわかりきっていて、かああと触れた指先から全身まで熱が一気に広がっていく。どくどく、と。心臓が壊れそうなくらい音をたてていた。

「せん、ぱ…」

いつの間にか抜き取られたマフラーが、そっと私の首に回る。びくりと反射的に顔を上げた私は、頬を赤らめ、今迄見たことがないくらいふわりと微笑む先輩を見て、余計赤面することになった。

あぁ、あつい。


「ありがとう、ございます」

一周二周と長さを整え、綺麗に巻き終えた先輩は、もう一度ゆっくりと私の手に触れた。じんわりと伝わるその熱に耐えられなくなって、思わずぎゅっと彼に抱きつく。驚いたような息が漏れた後、私の背中にそっと腕が回った。とても優しく、それでも確かに。彼の胸越しに、私と同じくらい音をたてる心を感じる。それがとても嬉しくて、私は一層強く抱きついた。


先輩。
私、自惚れてもいいですよね?



「大好き、です…水戸部先輩」


先輩は微笑むだけで何も言わなかった。それでも、私にはたしかに先輩の優しい声が聞こえた。

貴方がくれた温もり




「凛之助さん、これ覚えてます?」

ところどころほつれが見えるそれを、私は彼に見せる。彼は少し驚いたような顔をした後、照れたように顔を隠す。その薬指に光る輪を見て、私は微笑えんだ。

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大好きなおんちゃんへ、お誕生日おめでとうございます!


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