春も暖かな日

父さんに呼び出されて部屋まで行ってみれば

「息子、お前結婚しろ」
「は」


父さんのことは尊敬してるし、
目指す人でもあるけれど、
さすがに意味がわかんねぇ

「えっと、父さん」
「お前もそろそろ身を固めたっていいだろ」
「いや、そこに俺の意思はないわけ」
「相手はお前も気にいる素敵なお嬢さんだぞ」
「相手って…いやいやいや展開早いし!!」


もう決めちまったしなぁ…
なんて呑気に言ってる父さんと
放心しかけてる俺


そんな、急に、
それに俺には、
ぐるぐると脳内で結婚の文字が回ってる
まったく自分の言うことをきかない思考回路
それを断ち切ったのは、とんとんと叩かれた戸の音

「夏侯淵様、ご在室でしょうか?」

続いて聞こえたのは控えめな問いかけ

おうおう!なんて言いながら戸を開けた父さんの向こうには
ふわりと柔らかい笑顔の彼女がいて
俺の体が緊張から固まったのがわかる


張コウ将軍の女官の彼女は、
父さんと将軍が仲が良いこともあってか
顔を合わせることが多かった
控えめな性格とか、優しい笑みとか、
ふとした瞬間に触れた小さな手とか
一緒に居れば居るほど、意識をする女性だった



「おっ、どうした?」
「夏侯淵様、張コウ様が…あ…」


父さんへ向いていた視線が、後ろの俺を捉えた瞬間に
浮かべていた笑みが一瞬固まったのが分かった
さらに視線が外されて気まずそうに俯く彼女を見て
胸が締め付けられるのを感じる

「あ、あの、夏侯覇様…ご縁談の事ですが…」

小さな声で告げられて、
(あぁ、彼女はもう知っているのか)


彼女は、俺の結婚のことをどう思っているのだろうか
少しは、寂しがってくれるのだろうか
それとも、あの微笑みで祝福されるのだろうか
彼女に祝福されながら、知らない女性と結婚なんて


「父さん、俺、やっぱり無理だ」

きっぱりと伝えれば
振り向き驚く父さんと
顔を上げる彼女が視界に映った


「お、おい息子…」
「父さんごめん、相手の人に伝え「あ、あのっ」

お取り込み中失礼しました!
大きくおじぎをして慌ただしく部屋を後にする彼女を見遣る
気が抜けて息を吐いた瞬間に

「息子…」
地を這うような低い声と
大きな拳骨が頭に降ってきた

「いってぇ!!!!!!」
「バカ息子!追いかけて謝ってこい!!」
「はぁ?!なんで「あの子だよ!お前の縁談の相手」
「…は」




慌てて部屋を出て彼女を探す
(まだそう遠くに行っていないはず)
走り回って見つけたのは
庭の桜の木の下で蹲る小さな背中だった


少し乱れた呼吸を落ち着かせて
ゆっくりと歩みを進めると
気配を感じたのか
彼女は立ち上がり、頭を下げた


「ごめん、なさい…急に…逃げ出すようなことして…」
「いや、俺の方こそ…」

顔を上げるように伝えると、
おずおずと上がった顔には赤い目

(泣かせたいわけじゃない)
無意識に伸びた手は彼女の目元を優しくなぞる
驚いた彼女に、自分の気持ちを、伝える


緊張した自分の声と
風の通る音が重なって、伝わったか不安だったけれど
一面の桜色の中で嬉しそうに目を細めた彼女がいたから
こっちも嬉しくて自然に口元が上がったんだ



桃色の未来


(張コウ、遅くなってすまねぇ)
(いいえ、大丈夫ですよ…おや?)
(おぉ!息子のやつ、うまくやったみてぇだな)
(将軍、彼女の気持ち、ご存知だったのでしょう?もちろん夏侯覇殿の気持ちも)
(…まぁな)
(将軍からお話があったときは驚きましたが…息子想いの素敵な父親で夏侯覇殿も幸せですね)
(いや、お前だって優秀な女官だったんだろ?)
(…この時勢ですから、想い合う二人がいるのならば一緒になるのが一番なのですよ)
(…そうだな!)



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桃色の未来/夏侯覇

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