部活動が終わると、太陽は夕闇に掻き消されていた。
本当なら一番星が光る時間には帰れるのだが、何せ今日は部誌を書く当番なのでこんな時間になっても私は帰れないのだ。

ちょっとくらい束縛感を感じてもいいと思う、とマネージャーらしくないことを考えながら、だらだらと無駄に着替え時間の長い仁王と丸井が部室から出てくるのを待った。

…大方えっちい話でもしているのだろう、時折テンションの異常に高い丸井の声とそれを制止するジャッカルの声が聞こえる。
保護者大変だな。


「柳、これいつ出てくるの」
「100%に限りなく近い確率であと10分は出てこない」
「……いい加減にしなさいよ。」
「俺に言われてもな」


しれっと返事してくる柳は、私の頭をぽんと撫でて番犬を置いていくから帰り道は安心しろ、とか言って赤也をぽいと私の前に突き出した。
赤也は何故かご機嫌そうにして大人しく柳に掴まれている。番犬なのに。


「赤也、送ってくれるの?」
「俺のもんに手ェ出されたくないし」
「いつから私はあんたのもんになったの」
「初めて見た時すでに」
「えええそんな私の知らない所でやめてよ」


赤也が地面に胡座をかいてどかっと座る。
つられて私も体育座りで座ってみる。
真田が見たら地面に座るなとか言いそうだが、真田は幸村に引っ張られて早々に帰ったので心配ない。
柳は後は頼むぞ、なんて微笑んで(菩薩のようだった)行ってしまった。
残った部員は、空気を読めないプリガムとジャッカル、あと私と赤也だけである。


「アンタは俺のもんなの。決まってんの。間違っても先輩たちにちやほやされちゃダメなの。アンタのこと好きなのは俺だけでいいの。ってかお前さっき柳センパイに撫でられてたむかつく」
「……赤也、番犬にも程があるよ」
「アンタ俺の言うこと信じてないだろ? 特に好きって部分」


赤也の目がこちらに向く。
綺麗な瞳だ、と私は場違いなことを思いつつ、うん、と素直に答えておく。
すると赤也は、なんだかご不満な様子で今度は睨んできた。怖い番犬だ。


「じゃあ何したら信じんの」
「柳を殴ってきたらかな」
「殴ってくる」
「やめなさい冗談だから! あんた開眼されたいの!」
「てか殴りたいから。頭撫でるとか羨まし過ぎるし」
「じゃあ撫でればいいじゃんか、私開眼見たくないからほんとやめてあれトラウマになるからやめて」
「……撫でていいの」
「別に全然構わないけど」


立ち上がりそうになった赤也を全体重を掛けて地面に降ろすと(ちょっと引きずられた。男の子って力強い)、赤也が急に無言になった。そんなに柳に一撃喰らわせてやりたいのだろうか。


「……。」
「撫でてくんないの?」
「……しい……だろ」
「あ?」
「恥ずかしいだろ!」
「えええそんなこと言われても」


赤也は変なとこでシャイだ。
今流行りのツンデレだと思う。
多分このままだと話が進まないので取り敢えず私が赤也の頭を撫でてみる。


「……。」
「心地はどう?」
「いい」
「なら良かった。私男の子の頭撫でるの初めてだよ」
「俺が初めてなの」
「そうだよ、ワカメ頭結構ふわふわだね」
「ワカメ言うな」


でも俺が初めてになるのは嬉しい、と赤也は呟いた。
耳まで真っ赤にしてなんか可愛らしい。
女の子の私より可愛らしい。負けた。
赤也が心地良さそうに目を細めている。
番犬というよりツンデレ属性のマスコットみたいだ。
とそこまで考えると、なんだかこちらまで恥ずかしくなってきた。


「……私も赤也すきだよ」


恥ずかしい、のに、私は言う。


「どういう『すき』なんだよ」
「赤也と同じ意味でだよ」
「……キスしたいとか思ってるわけ」
「赤也そんなこと考えてるの」
「思ってないの?」
「頭撫でて欲しいなって思ってる」
「……じゃあ頭撫でてキスする。」
「欲張りな番犬だね。構わないけど」


赤也の手が私の頭に乗る。
それから、まるで壊れ物のように優しく撫でてくれた。
ちょっとぎこちないけど、とても心地好くて嬉しくなる。
私がキスは? と問うと、赤也は今度は私の心を砕く勢いで唇に噛みついてきた。
少し驚いたけど、私はそれを受け止めた。
角度を変えて何度も啄まれる。
漸く唇を離すと、赤也は私をぎゅうと抱きすくめてこう言った。


「もう離してやらないからな」


と。





 終
(ちょ、出るに出られねえんだけど!)
(もう帰りたいぜよー、砂吐きそうじゃ)
(……てかジャッカルが真っ赤になりすぎだろ!)
(猥談と現実は別物なんだよ!)




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