「なんか音、聞こえないか?」
最初にそう言いだしたのはバネせんぱいだった。みんな耳を澄まして聞いてみれば、どこかで楽しそうな祭の音楽が流れている。そういえば、いつもは人通りが少ないこの道も、今日はやけに家族連れが多いような…?
「そういえばさ、今日お祭りあったっけ」
母さんが言ってたなあ、とサエせんぱいはひとり言のように呟いたけれどみんなは「ああ〜、」、だから今日は賑やかなのか。と納得したように頷いた。お祭りかあ、そういえば何年も行ってなかったなあ、懐かしい。
「みんなで行かないか?お祭り」
最近大会が近いしみんなストレス溜まってるだろ、ストレス発散の意味も込めて、とサエせんぱいが言うとみんながみんな頷いて、わたしはお母さんにきちんとメールで報告して、わたしたちはお祭り会場へと向かった。
「はぐれるなよー」
みんなにそう言うサエせんぱいにわたしは頷く。夜になっても、相変わらずお祭りは人でいっぱい。浴衣を着ている綺麗なお姉さんもいっぱい居て、わたしもどうせなら浴衣を着て可愛くしたかったなあ、と少し残念な思いを心の奥底に閉まっておくことにしようとしたんだけれども、バネせんぱいがわたしの視線に気づいたのか「浴衣着たかったのか?」と聞いてきた。
「バネせんぱい、」
「こういう時くらいオシャレしたいよなぁ」
「まあ…、」
軽く頷けば「お前も気持ちはわからんでもない」って、ニカッとさわやかな笑顔で言われればわたしは思わず笑みがこぼれてきた。「せんぱい、女の子の気持ちわかるんですか」
★ ★ ★ ★
「祭なんて久しぶりに来たな〜…」
「本当ですよね、わたしも久しぶりです」
「ハハ、だよなあ」
いつの間にかわたしの隣にはバネせんぱいが居て、わたしよりも背が高くて大きなバネせんぱいを見上げると、楽しそうに笑って居て、思わずドキッとしてしまう。
「すっごい混んでるな、大丈夫か?」
「そうですね、…なんとか」
「はぐれないようにしないとなー…って、」
「?」
「サエも健太郎もいっちゃんも居ねぇし…」
「え、え…!?」
ホントだ、辺りを見渡してもサエせんぱいも樹せんぱいも居ない…ってことはわたしとバネせんぱいの二人だけってこと!?そ、そんな…「バネせんぱい、」名前を呼んで自分よりも背が高い相手の顔を見ると「しょーがねえなあ…、」と呆れた顔をしながらも「せっかくだし、二人で回ろうぜ」って、……バネせんぱい、マジですか。
★ ★ ★ ★
「お前はさあ」
「はい」
「俺でよかった?」
「え?」
「いや、だから、その…」
頬を掻くバネせんぱいを見ると、なんとなく言いたいことがわかった気がする、。「はい、あの、全然、むしろ、せんぱいで良かったです、よ」なんだかせんぱいの照れがこっちまで移ったような気がしてわたしも自然と言葉が途切れ途切れになってしまったけれど、バネせんぱいはわたしのそんな言葉を聞いて安心したように「そっか、そんならいいんだ。」って笑顔で言ってくれたもんだからわたしも嬉しくなった。
バネせんぱいと結構歩いているけれど、なかなか人は減らないまま。なかなか減らないなぁ、だなんて呑気なことを思いながらも歩いているとバネせんぱいの方が勿論歩く速度は早くて。さっきまで隣に居たハズのせんぱいはもうすでにわたしの先を歩いていたもんだから慌ててバネせんぱいに追いつこうとするけれど人が邪魔でなかなか前に進めない。どうしようこのままだとはぐれちゃう!「バネ、せんぱいっ」人に埋もれながらも相手の名前を呼ぶとバネせんぱいはすぐに気付いてくれて立ち止まってくれた。再びせんぱいの隣に行けば「ごめんな」と一言謝られて「いえ、わたしもごめんなさい、」と謝った。
「あのさ」
「?はい、」
「手、繋いでいいかな…」
「えっ!」
「あっ、いや、ダメならいいんだ、別に」
「あ、いえ…ダメじゃないです」
どうぞ、と手を差し出せばバネせんぱいはその手をギュッと握ってくれた。「こうすれば、はぐれないから」と付け加えて。はい、と返事をしたけれど実際はものすごいドキドキしてる。だ、だって、バネせんぱいの手がわたしの手を握ってるだなんてそんな、
「(緊張するよ〜…)」
★ ★ ★ ★
大体全部回って出口になった辺りにみんなが居た。「おーい!」と手を振るサエせんぱいにバネせんぱいが「おい!サエ!お前らはぐれてんじゃねえぞ!」と言えばサエせんぱいは全く悪気がないように「いやー、ごめんごめん」って。軽いよサエせんぱい…。
「でもそっちはそっちで楽しかったみたいで」
「!」
「手なんて繋いじゃって!」
「バッ…はぐれるから繋いだんだよ!」
サエせんぱいに冷やかされて顔が真っ赤なバネせんぱいを見るとわたしも自然に笑みがこぼれてくる。「お前まで何笑ってんだよ!」って隣でバネせんぱいが言うもんだからそれがまたおかしくって「すみません、」って一言。
「なんか俺ばっか恥ずかしくなってんじゃん」
ぼそっとバネせんぱいが隣で呟いていたけれどそれはわたしにはちゃんと聞こえていて。口には出さなかったけれど、わたしもなんだかんだでものすごく緊張してるし恥ずかしいですよ、バネせんぱい。それでも、心地よいのはきっと…、わたし、バネせんぱいのこと、多分好きだから、なんでしょうけどね。
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バネさん同盟おんちゃんへ!
わたしが書くとヘタレなバネさんになるの法則(笑)
from.榎菜子