美味しい匂いが鼻を擽った。
醤油の芳ばしい匂い、ジュージューと鉄板が具材を焼く音、それれだけで食欲をそそられる。
かき氷の氷同様、具材は自分達で買い出しして(魚はバネさんやタビデが釣ってくれたの)それを自分達で料理する。
皆で潮干狩りしたので、貝類には困らない。
テニス部なのに、なんともサバイバルな部活だなと毎回のように思う。


「樹っちゃん、味噌ってどれくらいいる?」

「そこのお玉の半分くらいでいいのねー」


私がもたもたと味噌を用意してる間に、樹っちゃんはさっさといろんな作業を終わらせている。
樹っちゃんはテニス部の中で一番料理上手だなぁと改めて思いながら…私、唯一の女の子なのに。
なんて思ってため息を一つ。
バネさんとタビデは二人で焼そばを作って、聡くんと亮くんとでご飯作り。
サエさんと剣太郎はテープル拭きやお皿の準備、そして私と樹っちゃんで味噌汁作りといった役割分担だ。
もっとも、私は樹っちゃんのお手伝いをしているだけで、味噌汁を作っているのは主に樹っちゃんだ。
ちなみにオジイは保護者だから、椅子に腰掛けて監視員。
こっくりこっくり船を漕いでるけど、監視員。


「樹っちゃん、はい!」

「ありがとうなのね」

「どんな感じ?」

「もう少ししたら出来上がるのね」


私の問い掛けに答えて、樹っちゃんはにこりと笑う。
樹っちゃんの笑顔って優しいな、ってちょっとドキッとした。
味噌が溶けだして透明だった液体が色を変えていく。
味噌汁の優しい香りがする。いつ嗅いでも美味しそうな匂いだ。


「樹っちゃんほんと料理上手だね」

「そんな事ないのね」

「そんなことあるよ。いいなー、樹っちゃんと結婚する人って幸せだろうね」


そう言ってにっこり笑ってみせると、なんだか恥ずかしいのね…と樹っちゃんが照れる。
樹っちゃんって可愛いなぁ、って頬が緩む。
鍋に目を向けてみると、コトコト、丁寧に煮込まれたアサリが口をパカリと開いていた。
今日もなかなかの収穫だったんだな、そう思うと嬉しくなった。


「樹っちゃん、」

「んー?」

「卒業してからもさ、樹っちゃんのアサリの味噌汁飲みたくなったら、樹っちゃんに会いに行ってもいいかな?」


私の問い掛けに樹っちゃんはにっこりと優しく笑いながら、勿論なのね、って答えてくれた。
樹っちゃんのその笑顔に思わずきゅんとしてしまう。
そんな乙女チックな女じゃないでしょ、私。


「でも卒業なんてまだ先なのね」

「うん、そうなんだけどね……へへっ、せっかちな事言ってごめんね」

「気にしなくていいのね」


そう言って、樹っちゃんは味噌汁をほんの少しだけお椀に入れる。
それをソッと私に差し出して、味見してほしいのね、と笑う。
樹っちゃんからお椀を受け取って一口味わいながら飲む。
うん、いつもながら美味しい。
やっぱり、うちの中で料理上手は樹っちゃんだな、改めて思う私であった。




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