その７、佐伯くんと
海観賞

気付けばもう日も沈みかけていた。
なんだか一日中食べて遊んだなぁと思う。
もうすぐ全国大会だ。
こうやって遊ぶのもきっと今日で最後。
とは言っても、そんなにガラリと変わるワケじゃないし、遊んだりはするのだろうけど。
練習内容はそれぞれで変わってくるんじゃないかと思う。
ザザーン、ザザーン、波の音が耳に響く。
夕暮れに染まるオレンジの空と海、綺麗だ。


「はい、アイス」

「ありがとう」


サエさんが私にアイスを差し出してくれた。
夕暮れと行っても季節は夏だ、やはりそれなりに暑いから、アイスが救世主に思えてくる。
フルーツ味のアイス棒が何個かセットになったヤツだ。
私はりんご味、サエさんはブドウ味だった。
冷たいアイスが口から全身を冷やしてくれる気がした。
冷たくて、甘い。


「いつ見てもいい風景だね」

「うん、綺麗だよね」


私の隣に腰掛けながらサエさんは海を見ている。
海を見つめるサエさんは、それはそれは絵になっていて。
嗚呼、かっこいいなぁと思う。
そんなサエさんに見とれていると、私の視線に気付いたサエさんがこっちに顔を向けてくる。
何？ って問われて、正直に答えた。
サエさんってやっぱりかっこいいよね、って。


「褒めても何もでないよ？」

「べつにそういうワケじゃないけど…普通にかっこいいなぁって」

「ハハッ、ありがとう」


そうお礼を言って笑うサエさんはほんとに王子様みたいで、サエさんが女の子に人気な理由がよくわかった気がした。
そりゃこんな笑顔見せられたら惚れるしかない。
あんまり見つめすぎてると妙にドキドキしてしまうからと、サエさんから視線を外してまた海を眺めた。


「朝は亮くんと眺めてたけど、朝と夕方じゃ全然違って…でもどっちの海も綺麗だよね」

「そうだね。あと夜の海もなかなかいいものだよね」

「んー、夜の海はちょっと怖いかな」

「大丈夫だよ、君が海に拐われないようにダビデが守ってくれるから」

「って、サエさんまでバネさんみたいな事言うんだから……私とダビデはそんなんじゃないってば」


バネさんもサエさんも、そんなに私とダビデの色恋沙汰が気になるのだろうか…ぶっちゃけ全く何もないと思うのだが…。
なんだかんだで中学生って事なのかな？ とか考える自分がなんだか年寄りみたいだと思った。
私だってまだ中学生なのに。


「でもダビデの事は好きでしょ？」

「勿論好きだよ？ ダビデもバネさんも剣太郎も樹っちゃんも亮くんも聡くんもオジイも、サエさんも皆大好きだよ」

「ハハッ、そうだよね。俺も皆が好きだよ、皆を大好きって言ってくれる君も、大好きだ」


ボトッ、持ってた食べかけのアイスが落ちた。
ああ、勿体ない…。
でも今のはサエさんが悪い。
そんな笑顔で、そんな台詞言ってくるなんて、無自覚だから余計に質が悪い。
特別な意味があるわけじゃないとわかっていながらドキドキする。
無駄に男前恐るべし…！


「……っ、天然ホストめ…！」

「うん、よく言われる」


さして気にした様子もなく笑ってるサエさん。
こういう時に無駄に男前なのがちょっと憎らしいなんて思ってしまう。
今のサエさんのファンに見られてたら、私絶対処刑されてたな、明日の朝日拝めなかった。
そう思うとほんとにホッとする。
そんな私の心境を知ってか知らずか、赤くなって可愛いね、なんてサラッと言ってくるのだ。
なんか私をいじって楽しんでやしないか？


「でもあんまり君をいじりすぎるとダビデが怒るからやめておかないとね」

「……サエさんって意外とＳだよね」

「ハハッ、でも俺は好きな人に対してはＭだよ？」

「そこまでは聞いてない」


さりげない爆弾発言に、ああだから束縛する人がタイプなんだ、なんて思ったけど思うだけに留めておいた。
そんなこんな話していると、バネさんが花火やるぞーって私達を呼ぶ。


「花火だって、行こうか？」

「うん、」


サエさんはそう言って先に行ってしまう。
私はサエさんの数歩後ろを歩く。
ザザーン、ザザーン、波の音が響く。
もう夕日は沈んでいて、あたりは暗くなっていた。