EXTRA | ナノ

秋も終わりに近付き寒さが増して来た頃、少女は毎日此処へ来るようになった。


「せんせー、さむい」

「……こりゃまた派手にやられたわね」


遠慮がちに扉を開け入って来た全身濡れ鼠に養護教諭は僅かに顔を顰め
身体を震わせ俯く少女の頭をロッカーから出したタオルで拭いてやる。

そしてあらかじめ用意しておいたジャージに着替えさせ、温かいお茶を出す。
普段明るく元気な少女が、此処ではいつも必要最低限の言葉しか口にしない。


「どう?ちょっと高級な茶葉にしてみたんだけど美味しい?」

「…よく分かんない」

「……お子様に聞いたのが間違いだったわね」


だが、分かっている。辛いと言われたとしても、助けてと言われたとしても
所詮養護教諭の自分が少女にしてやれることなど限られているということを。


「…さて、そこのおサボリテニス部員。状況は分かったでしょう?」


少女の足音が聞こえなくなると同時に、ベッドを仕切るカーテンに起き上がる人影が映った。


…………………

…………


今日もまた、近くの空き教室に連れ込まれ罵声を浴びせられる。
謂れの無い非難や文句を飛ばされるが、反論はしない方がいいと身をもって知っている。

ぐっと拳を握り締めて時間が過ぎるのを、飽きてくれるのを、待つだけだ。


「……ちょっと、人の話聞いてんの!?」


髪を掴まれ突き飛ばされ、少女は後ろによろめいて教卓にぶつかり床に倒れ込んだ。

そんな姿を見て突き飛ばした女は満足そうに鼻を鳴らし、その他の女達が笑っていると
力任せに教室の扉が開け放たれ、近くに居た女子が小さく悲鳴をあげる。


「―――芽衣先輩っ!!」


少年は探していた人物…倒れたまま動けなくなっている少女を視界に入れるや否や
足や腰に椅子と机が当たるとも気にせず無我夢中で駆け寄った。


>>この手を伸ばして


今のうちに、と女達は逃げるように教室を出て行くが廊下の向こうから
少年と一緒になって少女を探していた人物の怒声が響き渡り、深く息を吐き出す。

ようやく少女の所まで辿り着き、ゆっくり抱き起こしてやると
その虚ろな瞳に涙だけが渇くことなく幾筋にもなって頬を伝っていく。

気付いてあげられなかった後悔に押し潰されそうで、苦しくて、堪らなくて
何も言えず、ただただ少女を強く抱き締めることしかできなかった。


<< BACK >>

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -