EXTRA | ナノ

母親が、交通事故で死んだ。


「お夕飯の買い物に行って来るね」


そう言い出て行った母親の帰りを、もう何十回と観たアニメを
観ながら待っていた私の耳に煩く響いた電話の着信音。

久しぶりに声を聴く父親から淡々と、告げられたその言葉に
私は驚くこともしなければ泣くこともしなかった。
電話越しに聞いたことで、母親の死がまるで他人事のような
自分とは全く関係の無い出来事のように感じてしまっていたのだ。


あぁ、おかあさんしんだのか…受話器を置いてもその場に佇んでいた。


私の父親はカメラマンらしく、世界中を飛び回っていた。
その為家に帰ることはほとんど無く、遊んで貰った記憶も無い。

私の母親はそんな父親との昔話をよく楽しそうに話してくれたが
本当は、何度も何度も隠れて涙していたことを知っている。

良く言えば自由奔放、だが悪く言えば自分勝手な父親が嫌いだった。


「……ごめんな」


私が強ければ、私がもっと大人であれば母親を支え守ることができたのに
全て終わった後、逃げるように家を出て行った父親の背だけは今も忘れられない。


「疲れた?もうすぐお家に着くからね」

「…だいじょうぶ、です」


…あれから私は、母親の姉だと言う人の家に移り住むことになった。
それまで会ったことも無く、母親に姉が居ることも知らなかったが
私が頷いた時に見せた優しく微笑むその表情が、本当にそっくりだった。


「ただいまー!」

「お父さんお父さん!早くー!」

「こら、危ないから階段はゆっくり下りなさい」

「はーいっ」


膝を折り安心したような笑顔で両手を広げて娘を待つ母親の胸に
満面の笑みを浮かべた可愛らしい女の子が飛び込んでいく。
やれやれ、と言うかのような表情で母親の鞄を手にする父親。


温かい気持ちに溢れているその光景にただただ呆然として
此処が今日から私の家なのか、そう思うと涙が込み上げてきた。


そんな私を見た女の子は元々大きな目を零れ落ちそうな位に見開いて
勢いよく私に抱き付き肩を震わせた。しばらく戸惑っていた私だったが
次の瞬間には一緒になってわあわあと声をあげ、泣いていた。


>>おかえりなさい



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