日進月歩 | ナノ
対峙(1/5)
「……あのさー」
「どうした?何処か痛むのか?待ってなさい、今新しい湿布を…」
「そうじゃなくて!顧問がマネージャーの仕事やってどうすんの!?」
精密検査の方も問題無く、晴れて退院することができた絢だったが
こうして時間を見つけては榊が甲斐甲斐しく世話を焼く状況に戸惑っていた。
さすがにまだ走るのは避けたいが、もう松葉杖に頼らなくても歩けるというのに
車での強制登下校に始まり、荷物持ちにお弁当の用意…挙句の果てにはこれである。
「何、時間はいくらでもある。お前は治すことだけ考えなさい」
「いやいや…うちだってドリンクぐらい作れるんですけど?」
「駄目だ。いいから大人しくそこに座ってなさい」
立ち上がろうとする絢を制し、代わりにドリンクを作っている榊を見ていると
何とも言えない気分になるが何度も出てきそうになる溜息をぐっと飲み込む。
今回のことで心配も迷惑もかけてしまい、本当に申し訳無いと思っているのだ。
そういった思いがあるからこそ、やりすぎだと思いつつも強く言うことができない。
「絢ー!ドリンクでき…ってタロ何やってんの!?」
勢いよく部室の扉を開けた柚季は、思いもしない光景にあんぐりと口を開けている。
「(だよねー…タロがせっせとドリンク作ってるとかシュールだよねー…)」
「あぁ、柚季か。後少しで終わるから待ってなさい」
「んもー!跡部が探してたよ!?ドリンク置いて早く行って!!」
ぐいぐいと榊の背を押し部室から追い出そうとする柚季に榊はふむ、と
何やら考える素振りを見せた後、顔だけ振り返り柚季をじっと見つめる。
「柚季…そんなに怒らなくても、私はちゃんとお前のことも想っているぞ」
「そ、そういう意味で怒ってるんじゃないし!いいから出てけぇえええ!!」
榊が部室の外に出たのを確認し全力で扉を閉め鍵までかけると、深く息を吐く。
ほんの数十秒の間に疲労困憊してしまった柚季に絢は苦笑を浮かべるのであった。
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