日進月歩 | ナノ
困惑(1/5)

「「キャーッ!宍戸くーん!」」

「「柳生くん頑張ってー!!」」

「(えーっと…今の子達はこの前わざとぶつかってきた子達かな)」


部活が終わった後も残って打っている部員や、着替えて部室を出てくる部員に
黄色い声をあげるギャラリーを植木の陰に隠れるようにしゃがみ込み観察する。


「跡部様、今日も部活に参加なさらなかったわね…」

「生徒会の仕事忙しいんでしょうね…生徒会長ですもの」

「(…あの2人はこの前帰りに嫌味言ってきた子達だ)」


黒縁眼鏡をかけ、口元を隠すように本を開いて持ち上げる黒髪ボブの女の子


「(ふふん、化粧も変えてるし誰も柚季って気付かない!完璧だね!)」


……そう、その女の子の正体は小道具を用い華麗に変装した柚季であった。

こうして彼女達の会話を盗み聞くことで何か少しでも情報を得ることが出来ればいい。
絢には1人で動くな、と言われたがどうしてもじっとしていられなかったのだ。


「…そう言えば今日黒髪の方見なかったよね」

「ていうか、あいつ入院したって話聞いたんだけど本当?」

「あ、それ私も聞いた!階段から落ちたらしいね」

「うわぁ!痛い目に遭えばいいって思ってたけど本当に遭ったんだ」


そう言い、揃ってキャハハッと一際甲高い声で笑う彼女達を
瞬きすることも忘れて食い入るように見つめ唇を噛み締める柚季。
強く握り過ぎて本が小さく悲鳴をあげ、その手は小刻みに震えていた。


「(抑えろ、抑えろ柚季…今出てったら駄目だ…)」


許さない、許せない、忘れたい、忘れない、色んな想いが頭を巡っていく。

必死に自分の中の衝動を抑えていると、背後から頭に誰かの手が置かれ
突然のことに柚季は肩を飛び上がらせ勢いよく振り返った。


「みーっけ。ったく…探したぜぃ」


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