2012バレンタイン(シエル)
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(※ちびっ子連載設定)


「・・・、・・・ちっ」


舌打ちと共にペンを置き、今まで走り書いていた紙をクシャリと握りつぶす。
乾ききっていなかったインクが掌を汚して、それがまた彼を苛立たせる。


2月14日 St. Valentine's day


恋人や親しい人に贈り物をする日、である。
この日が近づけば街は「バレンタインの贈り物に」と謳い文句を掲げて、あれやこれやと多くを売り出す。
勿論彼−シエル−が経営するファントム社もその波に乗っている。

そして今、彼の悩みの最大の要因は同じ屋敷に住む+++へのプレゼントだった。


「・・・エリザベスへのプレゼントを考える方が楽すぎる・・・」


婚約者であるエリザベスには、毎年薔薇の花束を贈っているから何も悩む必要はない。
強いて言えば薔薇の種類を何にしようか、本数は何本にしようかと言うことぐらいだ。

ところが今、シエルが頭を悩ましている+++は一筋縄でいく程簡単ではない。


「・・・物欲がなさ過ぎるのも困りものだな・・・」


ハァ、と一つ溜息をついてシエルは握り潰した紙をもう一度広げる。
そこには彼が考えては書き出して、書きだしては塗りつぶしたプレゼントの候補品が書き連ねられていた。

洋服、は普段着を買い与えるだけで大騒ぎになってしまうので避けるべきだろう。
製菓、は自身が製菓会社を経営している手前自社商品のプレゼントになってしまう。
小物、は洋服と同じ様な結果になる可能性が高いだろう。
花束、は不意打ちで遊びに来たエリザベスが妬いてしまっては困る。
玩具、は製菓と同じだろうし何より彼女が玩具で遊ぶところを見た記憶がない。
書物、は確かに無類の本好きだが興味の薄い本をあげるのも忍びない。


「・・・・・・」


冷静に考えれば、「バレンタインなのに何もくれなかった!」と騒ぐタイプではないのだから、何も渡さないという手もある。
けれどそれはシエルの気持ちが許さなかったし、何より彼女が可哀相である。
なんせハロウィンもクリスマスさえも知らなかった+++、イベント事は1つでも多く経験させてやりたい。
それがシエルの本音だった。


「・・・、・・・チッ」


本日2度目の舌打ち。
妙案が1つも浮かばないことへの苛立ちだ。
広げた紙を再び丸めて、その辺に放り投げてシエルは立ち上がる。


「少し出歩くか」


幸い客人が来る予定も、シエル自身が外出する予定もない。
それにおやつの時間までまた時間がある。
部屋で唸っていても仕方がないと理由をつけて、シエルは部屋を出て行った。





 少年の苦悩
(結局、バレンタインと言うイベントを教えることがプレゼントだとこじつける事にした)





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何だかんだで、ちびっ子にシエルは甘いよねって言う・・・

掲載期間
2012.02.14〜03.01




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