土地神様と佐助
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「あら?・・・佐助?」


名前を呼ばれて天井裏から姿を見せれば、姫さんは1人自分の部屋でお茶を飲んでいるところだった。
何か用かと聞けば、気配がしたから呼んでみただけと切り返される。
気配がしたって・・・コレでも俺様、真田忍隊の長なんだけど・・・。
でも土地神の姫さん相手に気配を隠すのが無理な話なので、その辺りは大分前に割り切った。
だから問題は別のところ。


「あのね、姫さん。俺様も忍なの。用が無いなら呼ばないで頂戴」

「そう。なら用があれば呼んで良いのね?」

「・・・そういうわけじゃないんですケド」

「でもそういうことでしょ?」


お茶を飲みニィッと笑う姫さん。
黙ってりゃ可愛い女の子なのに、口を開けば生きた年数のせいか言う事に可愛らしさは無い。


「佐助。なんか失礼な事考えてない?」

「まっさかー!」

「・・・そういうことにして置いてあげる。で、今から任務?」

「え、まぁ・・・そんな感じだけど」


土地神だけど武田の人間ではない姫さんに「はい任務です」とは簡単に言えない。
疑うわけじゃないけれど、コレはケジメだから。


「そう。じゃぁ行ってらっしゃい。ちゃんと戻ってくるのよ」

「ええっ?あ、うん。行ってきます・・・?」

「疑問系じゃなくて、そこは言い切ってよ」

「あはー。申し訳ない」


思わぬ言葉に返事が言い澱む。でも仮に任務自体は簡単だとして、その道中も安全だと言い切れる保証は無い。
だから笑顔を浮かべて誤魔化せば、途端に顔を顰める姫さん。
あれ?俺様何か不味いこと言ったっけ?


「・・・本当、そうやって誤魔化すのが好きね」

「姫さん?」

「アンタも・・・この甲斐の地の一員なんだから。ちゃんと帰ってきなさいよ」

「え」

「アンタが、佐助がいなくなったら信玄も幸村も悲しむじゃない」

「・・・」


確かに。忍は道具だと(いい意味で)思っていないあの御二方なら有り得る。
でもその後に小さく続いた言葉に聞き間違いじゃないかと思わず耳を疑った。


「・・・それに。私も寂しいし」

「っ、姫さん?」

「ばっ・・・違うわよ。私は、甲斐の地が、その地に生きる全てが大事なの!だから1つでも欠けたら・・・その、悲しいのよ・・・」


驚いたのは自らその言葉を吐いた姫さんも同じらしく、必死になって弁解を繰り返す。
動揺して、慌てふためいて、焦りからか顔まで真っ赤にしちゃってさ。
その姿がなんだか愛おしくて、上がる口元を押さえるのが大変だった。


「ふーん。姫さんがそういうなら、俺様頑張って帰ってこないとねぇ」

「佐助っ・・・!」


ニヤニヤしながら言えば、今にも食って掛かりそうな表情の姫さん。
あまり弄って、また何か投げつけられたり、旦那に告げ口されて減給されても困るからこの辺でやめておこうか。


「さて、と。姫さん」

「な、何よ!」

「行ってきます」

「!・・・い、行ってらっしゃい。ちゃんと帰ってきなさいよ」


ポンと頭を撫でれば、これでもかと言うぐらい姫さんは目を見開いた後、すぐに視線を床に移した。
そして本当に小さな、忍の耳じゃないと聞き取れないほど小さな声で見送りの言葉をくれた。
それに満足した俺様はそのまま庭へ飛び出し、任務へ出かける。


「それじゃぁ、頑張りますかね」


ちゃんと帰って来いと言われた以上、必ず戻らないといけない。
近づく気配に気を張りながら、懐に持っていた暗器に手を伸ばす。
そして森の中へ相手を誘い込むように高く跳躍した。



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気が付けばツンデレになりやすい土地神様。
・・・そういう設定はなかったはずなんだけどな・・・。


掲載期間
2012.01.17〜02.14




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