ちびっ子とリジー
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『ふぁぁぁ・・・』

「もう!じっとして!」

『・・・はぁい』


零れ落ちた欠伸で怒られるのならば、振り返るのすらご法度なのだろう。
暇だ、と口に出すことはせず、ブラブラと足を揺らして暇をさり気なく訴える。


「ちょっと!動いちゃ駄目!」

『・・・』


・・・残念なことに無駄な抵抗だったらしい。
これ以上体を動かして怒られるのはごめんだと、石像の如くジッと大人しくすることを決意する。
とは言えそこまで我慢強く無いから、さっさと終わって欲しいと願うのもまた事実。


『・・・まだー?』

「もう少しよ。だからもう少し待って」


繰り返される何度目かの会話。
「もう少し」「待って」なんど繰り返されただろうか。
返事の代わりに、スンと鼻を鳴らせば不意に頭上から声が降ってきた。


「羨ましいわ、貴女の髪」

『・・・へ?』

「真直ぐでサラサラでくせっ毛がなくて」

『そ、そう?』


髪質を褒められたのは初めてだから返答に戸惑う。
思わず振り返りたくなるが、怒られるのは困るからじっと我慢する。


「・・・ただ、ちょっと髪を弄るのには不向きなのよねぇ・・・」

『・・・そう』

「でも、・・・ほら。出来た。見てみる?」


差し出された鏡。
覗き込めば、丁寧に編みこまれた髪の毛に目が行った。
普段髪の毛は下ろしっぱなしにしているから、鏡に映った自分が別人のように見える。


『わぁ・・・!』

「もう苦労したんだから!髪の毛サラサラ過ぎて、すぐほどけちゃうし。貴女は動くし」

『そ、それは・・・ごめん・・・』


でもこっちだって、ジッとしているのは疲れるんだ。
そういう空気を読まない発言はグッと飲み込んで。
代わりに告げるのは勿論、お礼の言葉。


『リジー。ありがとうね』

「どういたしまして。でもまぁ・・・多分、コレっきりよね・・・」

『・・・うん』


残念なことに自分で出来る自信は無い。
なんせエリザベスに髪を結わってもらう原因になったぐらいなのだから。


「さ。行くわよ」

『え?』

「え?じゃないわよ!折角なんだから、皆に見せなきゃ!」

『あ、うん。そう、だね』


差し出された手を握り返せば、満足そうな笑みを浮かべるエリザベスに引っ張られる。
足取り軽く、先を歩く彼女の背を見ていると自然と自分の口元が緩むのを感じた。


(なんか楽しいや)


大人しく1人で読書するのも楽しいけれど。
こうやって誰かと一緒に何かするのも読書とは違う楽しみを感じる。


「さ、準備は良い?」

『うん!』


ニッコリ笑うエリザベスに頷いて。
扉の奥に入る二人を呼ぶために大きく息を吸い込んだ。



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ちびっ子は残念なぐらい自分のお洒落に無頓着です。
着れたら良い、それで判断する子。
髪の毛も長いと邪魔だからそんなに長くないと思う・・・。

掲載期間
2012.01.17〜02.14




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