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―ここでの生活は息苦しくないか?
そう名無しに何度か尋ねかけた事がある。
本人が望んだけでもないのにこの屋敷に住まわせて。
住まわせたくせに来客時は部屋を出るなと活動を制限させて。
そのくせ僕が街に出る時は理由をつけて外に連れ出して。
挙句、過去に一度彼女はココを出ていくと言った時には理由をつけて引き留めた。
名無しが過去にどんな生活をしていたのかは不明慮だけど。
それにしたって自由がなさすぎるんじゃないかと思ってしまう。
勿論それぞれに理由はある。
屋敷に住まわせたのは、子供らしからぬ発想力を純粋に他人に奪われたくないと思ったから。
来客時に部屋から出るなと言うのは、人の目について余計な噂を立たせないため。
外に連れ出すのは、いつも屋敷内に居てばかりだから少しでも気分転換になって欲しいと思うから。
引き留めたのは、別れた後敵対する抹消すべき敵として再会したくないから。
「…まったくなんなんだ…」
すっきりしない気持ちを抑える様に背丈に余る椅子に深く腰掛け直す。
丁度その時だった。
いつもより低い位置から控えめに扉を叩く音がしたのは。
―私はココに居てもいいの?
そう何度かシエルに聞きたかった事がある。
住みたいと言ったわけじゃないのに、お屋敷にお部屋をくれたけど。
お客さんが来るときは部屋にいるようにって言われたり。
それなのにシエルが街に行くときは一緒にお出かけしたり。
私が記憶を思い出して迷惑をかけるから出ていくって言った時は引き留めてくれたり。
あまり人に言えるような生活を送って来ていないから。
だからこんな制限付きでも上質すぎる生活が不安になってしまう。
もちろん、理由は…わかってるつもり。
お部屋をくれたのは、シエルが求むものをあげたからそのお礼(ってシエルが言ってた)
お客さんが来るときに部屋にいるのは、人目について変な噂が立たない様に(って執事さんが教えてくれた)
街に連れて行ってくれるのは、私が退屈しない様に(…だと思う)
引き留めてくれたのは、次に会った時に敵対したくないから(ってシエルが言ってた)
『…でも』
不安な気持ちなのは変わりがないから、服の裾を握りしめる。
そしてそんな気持ちを誤魔化す様に、目の前の扉をゆっくり叩いた。
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