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―…一体何のつもりなんでしょう?

コツコツと靴音を鳴らし歩くセバスチャン。
そこから少し距離を取って極力足音を立てないように名無しが付いてくると言う不思議な光景。
用事があれば声をかけてくるはずなので、最初は気にしていなかったが厨房のドアの隙間から覗かれ、行く先々を着いて回られるとさすがにその意図が判らなくなってくるというもの。

挙句、振り向いて目を合わしたならば“ひゃぁ!”という効果音が付きそうな勢いで名無しは近くの物陰に身を潜めてしまう。
そして隠れているのがバレバレなのに、こちらの様子を伺ってくるのだ。
そんな人間に興味を持ち始めた仔猫を連想させる行動に思わず体が動きそうになるが、そこは平静を装い仕事をこなしていく。

(しかし何を考えているんでしょうか)

基本的に人の手を煩わせないが、時折突拍子もない事をしてくれるのが名無しである。
思えば屋敷に来た時も勘違いで追いかけられ回された挙句、木に登って降りられないと言い出すし。
養護院の子ども達の歓迎用にと綿密に型取りしたチョコレート製暴れん坊伯爵の頭を僅かな助走とジャンプ一つで取って行ってしまうし。
死神相手にも武器も持たず生身一つで対峙してしまったのは記憶に新しい。

(あぁでもそれを言えば、私にも飛び掛かってきましたねぇ)

それはアズーロに繰られていたり、冬の寒さで寝ぼけていたりと原因は様々だったけれど。
逆に言えば、あの小さな体で対峙できる点を褒めるべきなのだろうか。

(何もなければ普通の女の子、ですけどね)

東洋生まれのせいか同じ英国人の年の子よりは体も小さく、幼く見られてしまう。
英国内で育った環境のせいであまり甘えるという事はせず、妙な特技のお蔭で博識だけど、中身はスイーツ1つで笑顔を浮かべる年相応の子なのだ。

(…しばらくはお遊びに付き合いましょうか)

苦笑と共にセバスチャンは後ろを振り向く。

『…!』

やっぱり名無しは慌てて物陰に隠れ、そしてこちらを伺うのだった。






















しかし、その“しばらく”は意外にも長かった。
流石に夕食やシエルの入浴中は無かったが、夜着に着替えた後も名無しはセバスチャンの後を追いかけていた。
強いて言うなら眠いのか、昼に比べてその距離は随分空いてしまっていたけれど。

時刻はあと30分もしないうちに日が変わるという頃。
既にシエルもほかの使用人たちも就寝しているだろう時間帯。

「…そろそろ終わりにしましょうか」

燭台を片手にセバスチャンは歩くスピードを上げる。
わざとらしく大きくした足音に引き離された事に気が付いた名無しは慌てて走り出す。
そのままセバスチャンが角を曲がったので、名無しも後を追いかけ角を曲がるが、そこで見たのは燭台が置いてあるだけの光景。

『…あれ?』

見失ったかな?と眠い目を擦りながら首を傾げる。
が、次の瞬間背後で感じた気配に慌てて振り返ろうとするが、それより先に強い力で引っ張られた。

『…!!』

叫ぼうにも口を塞がれてしまい声が出ないし、周りを見ようとするにも目の前に広がるのは黒一色。
挙句身動きを取ろうにも抑え込まれていて、指先ぐらいしか動かせない。

「…全く…朝から何のつもりだったんですか?」

不意に耳元で囁かれた声に名無しの頭が非常ベルを鳴らし始める。
しかし身動きが取れない今、それは頭の中の騒音でしかなかった。
そのあとすぐに僅かに緩められた拘束にゆっくりと顔を上げれば、蝋燭の火に照らされたセバスチャンの紅い瞳に囚われた。

「ちゃんと訳を説明して頂けますね?」
『…ぁ…』

にっこり、そう音が付きそうなセバスチャンの笑みに名無しの体からは血の気が引いて行った。




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