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10月31日、某所。

「本当にやるのかい?小生はあまりオススメしないけどなァ・・・」
『えー・・・』

ダメなの?と視線で訴えられ、葬儀屋は前髪の奥に隠れた視線を彷徨わせる。
提案自体は彼自身非常に興味のあるものだし、何より実際見れば面白いものなのは間違いない。
それこそ(恐らく無いだろうが)名無しから情報料を貰う時、この先数回分は無料してあげてもいいかな、と思えるぐらいの威力はある。
しかし問題はその成功率。賭けをするのが無意味なほど、その成功率は極めて低いのだ。

「そりゃぁ小生も見てみたいよ?あの執事君が不意打ちをくらう所を。けどねぇ、名無し。・・・出来ると思ってるのかい?」
『・・・テイカー・・・準備してくれたのに・・・?』

短時間に2度も念押しをされ、名無しの意志がぐにゃりと曲がってしまう。
とは言え葬儀屋の言わんとしている事は名無しも良くわかっている。
非の打ち所がなく、まさに完璧としか言いようの無いセバスチャン相手に“何でもいいからビックリさせたい”と企んでいるのだから。

「まぁ小生は笑いが好きだからねぇ。そのためになら手を貸すよ?」
『むぅ・・・』
「ほらほらそんな顔しない。折角の衣装が勿体無いでしょ〜?」

言いながら葬儀屋は腰を上げると蜘蛛の巣の掛かった姿見を引っ張り出して、壁に立てかけるとその前に名無しを立たせる。
鏡に写った膨れっ面の名無しはまだ納得できない、といった様子のままだけど。

「我ながらよく用意できたよねぇ〜〜。名無しが突然来て“こんな服欲しい”なんていう時は何事かと思っちゃったけどさぁ〜」
『だって・・・』
「んーん。言わなくていいよ〜。小生としては・・・ちょーっと丈が短すぎるんだけど、でもそれ以上長くすると衣擦れの音がしちゃうしねぇ」
『セバスチャンさん耳凄くいいんだもん・・・』
「だろうねぇ。とりあえず帰りなよ。それでまた後でおいで。小生は結果を楽しみにしているからねぇ〜」
『・・・うん・・・』

さっきまで膨れっ面だった名無しがいざ屋敷に帰るとなると、急に不安げな表情を浮かべるものだから別の意味で葬儀屋の口元に笑みが浮かぶ。
適当に宥め、身なりを整えてやってカモフラージュ用のコートを着せ、手配していた馬車に乗り込ませる。

「じゃぁね。小生の笑いのためにも頑張っておいで」
『・・・あぅ・・・』

ヒヒヒッといつもの笑いを浮かべて見送りをしてくれる葬儀屋に、名無しは頭の片隅で相談相手を間違えちゃったかなぁ・・・と僅かばかりの後悔に頭を抱える。
けれど非常に限られた名無しの交流関係の中で、こんな事を相談できるのは葬儀屋しかいないのもまた事実だった。

『うー・・・やっぱりやめようかな、どうしようかなー・・・』

1人名無しが頭を抱えている間にも、馬車はゆっくりと目的地であるファントムハイヴ家の屋敷へと動き出していた。














『ありがとうございました』

送ってくれた馬車から降り、礼を言うと名無しは一目散に屋敷へ飛び込む。
それと同時に目的の人物であるセバスチャンと鉢合わないように精一杯気を張り詰めて、気配を探りながら自室へと駆け抜ける。勿論その際に足音を立てないようにこれにも精一杯の気を使いながら。

『つ、つかれたぁぁぁ・・・』

いつもと同じ道を走っただけなのに、どっと疲れが押し寄せて来て、部屋の扉を閉めると同時にその場に座り込んでしまう。
けれどそれでは何の意味もなさないので、何とか立ち上がって名無しは姿見の前でもう一度自身を確認する。

『・・・よし』

服装が問題ないことを確認して、コートのポケットからピンを取り出し髪につける。
その位置が左右でずれていないことを確認して、今度はどうしようかと思案する。
出迎えがなかったと言う事は、セバスチャンは間違いなく仕事中のはず。そして時間的に考えられるのはスイーツの準備。
つまり必然的に名無しとセバスチャンが顔を合わすスイーツの時間までがタイムリミットと言うこと。

『・・・ぁ』

不意に一つの計画が頭を過ぎり、名無しは慌てて部屋を飛び出す。
勿論足音は最小限に、気配も出来るだけ押さえ込んだまま。
そして名無しが向かった先でその人物は名無しを見るなり大きく眼を見開いた。


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