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「さぁて…どうしようかねぇ…」

店の定位置に座り、入り口を眺めながら彼は一人呟いた。
朝から生憎の曇り空、それ故普段から良くない客足が輪をかけて良くない。ならばいっそ店を閉めて実験に精を出すべきか否か、それが彼-葬儀屋-の言う“どうしようか”だった。
と言っても彼の職は何時客が来るか判らないので、閉店してようが客が来るときは来てしまうのだけど。

「ん〜………ん?」

ちらり、ちらり。
いつの間にか店の入り口から中を覗こうとしている人影がいた。
シルエットから判断するにまだ子どもらしいそれは何とかして中の様子を見ることが出来ないかと右に左に背伸びをしたり、しゃがんでみたりととにかく忙しなく動き続けている。
それは暇を持て余していた葬儀屋には十分な暇潰しであり、同時に小さな笑いの種でもあった。

「ップ…誰だろうねぇ、必死に小生の店の中を覗こうとしている子は」

ニヤニヤと笑いを隠そうとせず、しかし足音は消して葬儀屋は入り口に回り込む。
そのまま外の人影に気付かれないように一気に扉を開ければ、そこにいたのは一人の子。


『わっ…!?』

まさか勝手に開くとは思っていなかったのか、扉に手をかけ背伸びをしようとしていた名無しはバランスを崩し、前につんのめる。
それを難なく支えると葬儀屋はより笑みを深くした。

「ヒヒッ…予想通りだね〜。…おや?伯爵は?いないのかい?」
『うん。女王に会いに行くんだって。その間テイカーの所にいておけってシエルが』
「…ココは託児所じゃないんだけどねぇ…。まぁいいや、お客さんもいないしお茶ぐらい出してあげるから、入っておいで」

言いながら踵を返せば後ろからついてくる軽い足音。
適当に座ってと言葉を残し、一度店の奥に引っ込みビーカーを両手に戻ってくれば名無しは椅子代わりの棺に腰掛けていた。


「別にお客さんじゃないんだろう?こっちに来なよ」
『え、でも…』
「小生は気にしないよ」

ほら、と手招きして待つこと数十秒。
渋々というか納得しないというか、そんな複雑な表情で名無しは腰を上げやや遅い歩みで葬儀屋の元にやってきた。

「はい、いらっしゃ〜い」
『わっ!テイカー!?』
「ヒヒッ…椅子は一つしかないんだ、当然だろう?」

やってきた名無しを簡単に抱き上げてそのまま後ろから抱え込むような形で自身の膝の上へ。
名無しは抗議こそすれど、暴れたらカウンターの紅茶をこぼすかもしれないと判っているからか、暴れると言うことはしなかった。

『最初から…コレが目的だったの?』
「人聞きが悪いなぁ…。あんな遠いところに座ってたら同じ所でお茶が出来ないじゃないか」
『でも、テイカーが好きに座ってって…』
「ん〜、聞こえないなぁ。あ、クッキーいるかい?」
『……いる』

名無しのもっともな反論を無視して、葬儀屋は骨壺に入れていたクッキーを取り出す。
適当な枚数を摘んで、そのうちの何枚かを名無しに渡せばポリポリと小さな音が始まった。


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