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大粒の雨が容赦なく窓ガラスを叩きつける。
そんな天気の悪いある日の事。

「・・・名無し。顔が赤いぞ?」
『・・・ん?』

シエルに指摘され小首を傾げる名無しの顔は確かに赤い。
逆上せたか?と一瞬シエルは考えるが、生憎暖炉に火を灯すような季節でもなければ暑さにうだる季節でもない。
となれば若干嫌な予感がすると思いつつ、断りを入れて名無しの額に手を伸ばす。

「・・・。・・・名無し」
『んー・・・?』

触れた額は熱い。微熱とかの域を通り越して熱い。
怒鳴りたくなる気持ちを押さえ、名無しを見れば余程自分の手が冷たいのか、ふにゃりとしまらない表情を浮かべていた。

「色々言いたい事はある。が、まず部屋に戻れ。そして着替えて寝ろ。良いな?」
『えー・・・』
「えー、じゃない。具合が良くないことを自覚しろ」

言われ渋々とした様子で名無しは席を立つ。
歩き出せばどことなく、その足取りはフラフラと覚束ない。
そんな様子を見るに耐えかねてシエルはメイリンを呼び出し、名無しを部屋に連れて行くよう指示を出した。







「大丈夫ですだか?」
『ん・・・』
「まず着替えて、それからお医者様の手配をしてもらうだよ」

他にもあれやこれやとメイリンが話しかけてくるが、名無しの耳には殆ど届かない。
全く気にしていなかったけれど、シエルに言われてからどうにもこうにも体がだるい。
歩くにも足がぎこちないし、口の中が渇いて話すのも億劫で、何より頭がボーっとする。
そんな普段と様子の違う名無しにメイリンは不安を抱きながらも着替えを手伝う。

「横になって・・・。ワタシ、ちょっとタオル持って来るですだ。他に何か欲しいものとか・・・」

有れば言って欲しいですだよ、とメイリンが言い切る前にノック音が部屋に響く。
慌ててメイリンが扉を開ければ、そこにいたのはセバスチャンとシエル。

「坊ちゃんからお話は聞いています。様子は?」
「はわわ、坊ちゃんにセ、セバスチャンさん・・・。えっと見ての通りですだ。結構熱があるせいかボーっとして話しかけても反応は今日一つですだよ」
「チッ・・・。悪化してるじゃないか」
「思ったより具合が宜しくないようですね・・・。メイリン。貴女は仕事に戻ってください。後は私が」
「は、はいですだ!」

2人に軽く頭を下げてパタパタと走り去るメイリンを見送り、セバスチャンはチラリとシエルを見やる。

「ところで坊ちゃん」
「何だ。あぁ夕飯やスイーツの時間が多少遅れることなら気にしないぞ」
「おや」

意外だ、という表情のセバスチャンにシエルは鼻で笑う。

「こんな天気だ。医者に往診を頼んですぐに来るとは思えない。それに名無しを一般の医者に見せて良いものか判断に困るしな。外傷ならともかく、内面は判らん」
「そうですね」
「そういうことだ。他の面々に看病を任せられるとは思わないしな。頼んだぞセバスチャン。但し容態が悪化すればすぐに医者を呼べ、良いな?」
「御意」

最後に一つ念を押し、シエルも部屋を出ていく。
そしてセバスチャンは部屋の外に置いていたカートを中に引き寄せる。
その上にはタオルと氷水の張ったボウルがあった。

「本当、貴女は時折手がかかりますね」

濡らしたタオルを絞り、名無しの額に乗せてやればいくらか表情が和らいだように見えた。

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