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(2/3)


「お、おい。何だそれは」
『しっ!』

自室で新聞を読んでいたシエルはノックもせず部屋に転がり込んできた名無しを咎めようとして、その姿に言葉を失った。
普段から女の子らしい服装を嫌う彼女がスカート、しかも丈が短くフリルがあしらわれたものを履いている。
さらに上は真っ黒なブラウス。アクセントなのか赤いリボンを結んでいはいるが、如何せんソックスも靴も真っ黒なのでそのリボンが嫌に目立っていた。ちなみにソックスは一応膝上まであるがスカートが短いので、若干見える素足にどうしても目のやり場に困ってしまう。そして頭にはどこで手に入れたのかネコミミを模したヘアピン。
“これで尻尾があればな”と一瞬思ってしまったのは自然な流れだろう。
後そういえば今日って10月31日でそういう日だったな、と言うことと。

『あのね、紙とペン貸して』
「は?」

一瞬の間に色々考えていると何か迫る勢いな名無しに圧され、シエルは適当な紙とペンを名無しに差し出す。
それを受け取ると名無しは慣れない手つきでせっせと文字を書きはじめ、シエルがゆっくりと目で追っていく。
次第に事を理解したシエルはゆるりと口元を緩め、名無しの手からペンを抜き取ると慣れた手つきで文字を書き連ねる。
自分とは違い読みやすい字に名無しが感嘆するも束の間、その意味を理解して2人はにぃっと笑い各々の場所に移動する。

「いいか?」
『OK』

そうアイコンタクトを交わし、シエルはいつものように彼を呼び出すベルを鳴らす。
名無しは気配を押し殺し、聞こえてくる足音に耳を澄ませる。
1歩、また1歩近くなる足音に名無しの心音も1つ、また1つ五月蝿くなっていく。
やがて名無しにとっては気の遠くなるような時間の末、コツリと足音が止まった。


―コンコン


短いノック音。


―坊ちゃん?入りますよ?


キッと僅かに金属の軋む音がして、名無しの足に力が入る。
僅かに隙間が出来た瞬間、シエルの顔に笑みが浮かんだ。


「失礼し『わぁぁぁっ!!』っ!!」


名無しの計画にシエルが提案した内容はこうだ。
何も知らずにいつもと同じようにセバスチャンが扉を開けたその瞬間を狙って気配を押し殺していた名無しが文字通り体当たりで飛び込むと言う酷く単純で、かつ古典的な方法。
時間が勿体無いのでハロウィンの常套句“trick or treat!”は省略で。
シエル自身、セバスチャンの聴覚の良さは判っていたつもりなので筆談で応じていたのだがその方法が功を奏し、結論から言えば肩をビクつかせるというセバスチャンを見ることが出来た。・・・のだが。

「・・・・・・。坊ちゃん?名無し?」
『あわわ・・・』
「・・・」

もうニッコリと音が出そうなほどの笑みを浮かべたセバスチャンにシエルも名無しも直感的に危機を悟った。
そして先に責任転嫁を狙ったのは勿論シエル。

「僕は名無しの相談に協力しただけだからな」
『シエルっ!?』
「そうですか。いえ“そうでしょうね”。ねぇ、名無し」
『え、え?』

あえて言い直す事で既に犯人を確信していたと暗に伝えるセバスチャン。
逆に名無しはと言えば動揺を隠せないでいた。

「良いですか、名無し。貴女なりに気配を隠すなど考えたのでしょうけど、それが逆に不自然でしたよ」
『あわー・・・』
「で、どうしたんです?この格好は。少なくとも街に出たときにこんな服は買っていないはずですよね?」

ぶらん、と両脇から抱き上げられ宙吊りで問いかけられた名無しは思わず視線を反らす。
しかしその行動が逆に誰かと言うことを如実に表してしまう結果になってしまった。

「はぁ・・・きっと葬儀屋さんですね」
『っ!』
「判りやすすぎですよ。貴女。ところで坊ちゃん」
「なんだ?」
「こんな悪戯をされたんです。多少スイーツが遅くなる程度の罰は覚悟されていますね?」
「な!?」
「それから名無し。勿論・・・貴女も判っていますね?」

“あ、すごく危険。今すぐにでも逃げなきゃダメだ”
何となく感じた身の危機に名無しはその場からの脱走を試みる、が。
この抱き上げられ宙ぶらりん状態では逃げる動作を起こすことすら叶わない。

「気づくのが遅かったですね」

なんて笑顔で言われた時には一瞬にして体中から血の気が引いた。
そしてシエルに救いの目を向ければ、彼は非情にも哀れみの視線を既に向けていて、助けてくれる気は0だと先手を打たれていた。
セバスチャンは名無しが絶望に打ちひしがれている間に抱えなおすと、扉に手をかけシエルに向き直る。

「では坊ちゃん。失礼しますね」
『や、ぁ、ちょ・・・シエル!た、助けて!』
「・・・健闘を祈る」

みにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!と段々小さくなっていく悲鳴にシエルは心の中でほんの少しだけ詫びを入れた。







お菓子より先に悪戯を END

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