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聞こえるのは激しい雨音とそれに紛れて聞こえる小さな呼吸音。

「・・・水を取り換えてきましょうか」

ボウルに浮かんでいた氷は大分前に水になってしまった。
それに今のところ容態も変わっていないし、もうじきスイーツの時間だ。
多少離れても良いだろうとセバスチャンは名無しに背を向ける。
そしてボウル片手に一歩踏み出すと同時に僅かに背を引っ張られた気がして思わず後ろを振り向く。
不自然に伸びた燕尾の部分。視線を辿れば小さな手が握り締めていた。

「どうされました?」
『・・・』

声をかけてみるものの返事はない。
けれど何かを訴え動く口にセバスチャンは水を差し出す。
文字通りあっという間に水は消え、口の渇きが解消された名無しはゆっくりと口を開いた。

『・・・いっちゃうの?』

いつもより小さく、いつもより呂律の回らないため幼く感じる声。
熱のために潤んだ瞳は今にも泣き出しそうに見えてしまい、セバスチャンはボウルを置くと名無しのために屈みこむ。

「えぇ。水が温くなってしまいましたから換えてくるだけですよ」
『・・・、・・・だ』
「はい?」
『いっちゃ・・・やだ・・・』

搾り出すような、訴えるような小さな声。
すぐに戻ると言っても首は横に振られるだけ。

「ですが・・・」

珍しくセバスチャンが困惑していると、名無しは自分の手を伸ばす。

『・・・て』
「て?」
『て、だして・・・』
「こう・・・ですか?」

意図が読めないまま片手を差し出す。
すると名無しはふにゃりとした笑みを浮かべてその手を握った。

『つめたい・・・』
「名無し。貴女、熱があるからですよ」
『でも・・・、つめたいの、やじゃない・・・から』
「・・・」

まぁ確かにセバスチャン自身は人ではないので、体温も人に比べたら若干低いと思う。
それにしたって手袋越しに名無しの手から伝わる熱は思ったよりも熱い。
半ば熱にうなされ、呂律も回っていないから名無しが何を伝えたいのかはさっぱり判らない。
それでも普段甘えない名無しが甘えている事ぐらいは理解できた。
そう判ってしまえば相手は熱で苦しんでいると言うのに、不謹慎ながらゆるりと口元が弧を描く。

「ならばこうしましょうか?」
『・・・?』

握っていた小さな手をすり抜け、まだ赤みの抜けない頬に触れる。
一瞬ピクリと名無しが反応するが、すぐにその触れた冷たさに表情を緩めた。

「こちらの方が良いでしょう?」
『・・・あい』
「さぁ暫くお傍にいますから。もう少し眠られてはいかがですか?」
『・・・ちゃんと、いてくれる・・・?」
「えぇ。私は嘘を付きませんよ。ちゃんと名無しが眠るまで傍にいます」

―ですから安心してお休みください。

頬から額、そして頭を撫でてやれば名無しは安心したように目を閉じる。
そして数分もしないうちに再び小さな寝息が聞こえてくる。
それは気のせいか先程よりもずっと落ち着いたように聞こえ、セバスチャンは一人胸を撫で下ろした。

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