上手く行かない
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必死になって伸ばした手が後少しと言うところで掴んだものは空気。
唯一のチャンスを逃した私は再び小さな世界で生きることになった。
「さぁ、エンジェル!今日もザビー様の素晴らしさについて語りましょう!」
「断固拒否するわ」
「なぜです!?ザビー様はエンジェルの素晴らしさを語っていました!ならばエンジェルもザビー様の素晴らしさを語るべきでしょう?!」
「訳判らない、何その理屈。大体、私はエンジェルじゃない。ちゃんと千歳っていう名前がある!」
「なっ!ザビー様から頂いた洗礼名を否定するとは!お前がエンジェルでなければ、罰則ものですよ!」
キーーとハンカチを噛みながら地団駄を踏む(見た目だけは)金髪の美少年、名は大友宗麟。
ザビー教なんて怪しい宗教に両足浸かりこんだ彼は己の地をザビー教に捧げるほどの熱心な信者だ。
その教祖のザビーはと言えば、2年ほど前に突然姿を消した。
教祖が居なくなったことで、脱退(?)する信者に紛れてザビー教からの逃亡を図った私だが運が悪いことに宗麟に見つかり脱出用の船に乗りそびれ、結局ザビー教に強制残留させられる羽目になった。
「あぁぁぁ!もうエンジェル、エンジェル五月蝿い!!エンジェルじゃないって言ってんでしょうが!」
「五月蝿いのはエンジェル!貴女もですよ!」
「・・・あの、我が君。あまり千歳様にご迷惑をかけられては・・・」
「五月蝿いですよ、ギャロップ!それに彼女は千歳ではなく、エンジェルです。お前まで名を間違うと言うのですか!」
「ぬぐっ・・・し、失礼致しました・・・」
宗麟に口で負かされているのは彼の重臣、立花宗茂さん。洗礼名をギャロップ立花。
正直、何故ギャロップなのかは不明。
西の宗茂と高評価を得ている彼がこんなクソガキに仕えているのは、一重に重たすぎる忠誠心ではなかろうか。
・・・だとしたらその忠誠心でもう少し、この馬鹿な主を全うな道へ導いてくれなかったものだろうか。
とは言え彼は唯一のこの大友ザビー領での良心とも言えるわけで・・・。
「・・・立花さんだけが、私の心の支えですよ・・・!」
「な、千歳様・・・。勿体無きお言葉・・・!」
「だから私を早くこの用地から出してください!」
「そ、それは・・・我が君の命がなければ・・・」
縋る私に目をそらす立花さん。
わかっちゃいるけどね。出られないって。
「そもそもエンジェルならば、羽があるのでしょう?その羽で飛び上がればいいものを」
「え、何。じゃぁ飛び上がれたらココから出て行ってもいいと?そう言う事なら私頑張る!」
「なっ!馬鹿をいわないで下さいエンジェル!貴女がザビー教から抜けるなんて僕が許しませんよ!」
「ふははは!飛び上がればいいと言ったのは宗麟、アンタ自身よ。男に二言が有っちゃダメよ」
「くっ・・・」
・・・と言っても、羽なんか生えないけどね。私。
そもそもエンジェルなんてふざけた洗礼名、トリップした時に空から落ちて来たからなんだけどね。
ていうか主要キャラに会えないトリップってどうなのよ。別に逆ハーで総愛されとか願ってなかったのに・・・世の中は上手く行かないものなのね。
「良いでしょう!エンジェルが飛び上がる前に思い出号で打ち落とせば良いだけの話です!」
「え、なにそれ!物騒すぎる・・・!助けて立花さん!」
「我が君・・・千歳様・・・・・・・・・・(毎日毎日同じことを繰り返し。侍やめようかな・・・)」
・・・今日も残念なことに大友ザビー領は平和です。
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