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諦めてくれるなら話は早いのに

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「其処をどけ、これは命令だ。you see?」
『例え政宗様の命だとしても、こればかりは譲れませぬ!』



城門を背後に睨みあう一組の男女。
男は白の小袖に蒼の袴で見るからに丸腰、片や女は武装をして槍を構えていた。
男は奥州の地を統べる伊達政宗といい、女はその政宗の下で働く女武将で名を千歳という。



「俺は城下に行く。だから其処をどけ。何度も言わせんじゃねぇよ」
『なりませぬ!小十郎様からも政宗様を城下に行かせぬ様命ぜられておりますゆえ』
「小十郎、ねぇ・・・。つーことは千歳。アンタは俺より小十郎を優先するのか?」
『そ、れは・・・』



う、と千歳が言葉に詰まらせる。
小十郎と政宗、どちらが上の立場かなんて問うのは愚問である。
つまり命を受けたとき、どちらかを優先させるかということも。



「まぁ、どうせ俺の執務が終わるまでは通すなってことだろ?」
『・・・はい』
「仕方ねぇ。俺も小十郎の小言は勘弁だ」


腕を組み、政宗は城内へと踵を返す。
その様子に千歳はホッとしたように息を吐いた。


『政宗様。判っていただけたのですね!』
「あぁ。・・・・・・・・・なんてな」
『え?』


くるりと振り向いた政宗の顔はまさに悪人面で。
しまった、と千歳が思ったときには既に遅かった。



『あぁぁぁぁぁぁ!!!政宗様ぁぁぁぁぁ!!!!』




思えばこの主。
手綱持たずに乗馬をこなし、その馬から飛び降りた時に衝撃波を生み出せる人間である。おまけに振り回す刀の数は6本と人間離れ。
婆娑羅属性を持たない只の武将、ましてや女である千歳が守る城門を少しの助走で飛び越えるぐらい造作もないのだ。



『お戻り下さい、政宗様ぁぁぁ!私が小十郎様に怒られちゃいますよぉぉぉ!!』


槍と恥を投げ捨て、千歳は城門を叩く。
しかしそれで戻ってくるような主ならば、千歳も竜の右目と名高い小十郎だって苦労はしない。


「Hey.千歳」
『なんです?!戻ってきていただけるのですか?!』


コンと答えるように外側から叩かれた音に千歳は顔を上げた。


「あぁ、城下を堪能したら戻ってくる。俺が安心して戻ってこれるよう、お前はその門を守ってろ。you see?」
『あ、はい!』
「良い返事だ。じゃぁな」
『はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ!・・・って、あれ?』


なんだか大層な役目を仰せ付かった気がして、思わず返事をしたものの。
よくよく考えれば、結局小十郎から命ぜられた任は遂行出来なかったのではないだろうか。


『ま、政宗様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


良く晴れた奥州の青空の下。
恥かしさと、後悔との交じり合った千歳の叫びが響き渡った。








***************
不憫な門番もとい女武将。
裏設定は筆頭の脱走防止に小十郎が敢えて配置したとか何とか。


森ブログに掲載していたものを移動させました。
初回掲載:2010.07.27
加筆修正:2011.11.15


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