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首都から少し離れ
霧けぶる森を抜けると
手入れの行き届いた
屋敷があらわれる
その屋敷に住まう名門貴族
ファントムハイヴ家当主の朝は
一杯の紅茶から始まる
「坊ちゃん、お目覚めの時間ですよ。***様もお待ちです」
『シエル、朝だよー』
コポポ…と紅茶を淹れながら幼い当主シエルを起こすセバスチャンと***。
辺りにはフンワリとセイロンのいい香りが漂う。
そしてセバスチャンが朝食の説明を始め、付け合わせの選択をシエルに尋ねた。
「…スコーン」
『じゃぁ私カンパーニュが良いなぁ』
まだ寝起きの声でシエルが答えると、セバスチャンの後ろに立っていた***が口を開いた。
「畏まりました。では***様こちらを。お食事が終わる頃にそちらへ参ります」
『ありがとうございますー』
これからシエルが着替える事を知っている***はカンパーニュを受け取り自室へと戻って行った。
『今日の紅茶は確かセイロンって執事さんが言ってたっけ?』
ミントサラダを口に入れながら***は記憶を辿る。
『それから食器がウェッジ何たら…えっと何だっけ…』
実の所***は長い横文字が苦手だった。5文字を超えたら、まず覚えられない。
と言うよりは体が横文字と言うものを拒否している節が有った。
その度に***は「前はどうしていたんだろう?」と覚えていない過去を考える。
『もぉ、カンパーニュなら覚えられたのに』
そう言い手にしたカンパーニュを口に入れた。
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