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「#エロ」のBL小説を読む
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「えー!?シエルはまだ帰ってこないの?!そんなぁ…。あ、でも***だけでも戻って来てくれたなんて嬉しい!そうそうあのね、この間お出かけした時に***に似合いそうなお洋服買って来たから、一度着て見てほしいの!後ね、こっちのアクセサリーなんだけどデザインとか色使いが可愛いから、***にどうかしらって。それからー…」

なんて矢継ぎ早に喋ってくるエリザベスに『…やっぱり戻らない方が良かったかなぁ…』と帰って来て早々遠い目をしてしまったのがほんの数時間前。
渡された洋服は***の好みを知ってか知らずか、フリルが控えめなシンプルなデザインのワンピース。とりあえず着てみれば、これまたエリザベスのマシンガントークが炸裂。それを適当な相槌で誤魔化し、ちょっとゲームをしたり夕食を共にしたりと時間を費やし眠たくなったエリザベスがメイリンに連れられて退場したのがついさっき。

『………』

まさにぐったりと、屍の様にソファに沈み込む***に同じ被害者ともいえる使用人たちが同情の目を向ける。

『…着替えてくる…』
「お、おう」
「いってらっしゃいー」
「ほっほっほ」

使用人たちに見送られ、***はふらふらとおぼつかない足取りで自室を目指す。
部屋に入ればベッドが手招きをしていたが、今着ているのは貰い物だからと誘惑に気付かぬふりをして、楽になりたい一心で着替えの服に手を伸ばした。

『リジーが見たら、絶対怒るよね…』

シャツにベスト、ハーフズボンと言う女の子らしさとは掛け離れた服装に思わず苦笑い。
スカートが嫌いと言うわけではない。ただ女の子らしくフリフリしたタイプが苦手なだけ。
ボーイッシュな格好が好きと言えば聞こえはいいが、実のところは動きやすくて楽だからと言うのが本音。
そういう風になってしまった理由をリジーに話すつもりは今のところない。

『ワンピースはシンプルなら動きやすくていいんだけどねー…』

着ていたワンピースをハンガーにかけ、部屋を出ようとして***は足を止める。
そして部屋の窓を見たかと思うと、そのまま勢いよく走り出してしまった。







『何か来る!!』
「「「はい?」」」

メイリンが戻ってきたことで部屋の内装を元に戻そうと奮闘していた使用人たちは、突然飛び込んできた***の言葉に首を傾げる。
しかし次に続く言葉を聞いた瞬間、彼らの表情が変わった。

『数は5。裏口の方向から!』
「フィニ!メイリン!」
「はいっ!」
「はいですだ!」

こんな森の奥にあるファントムハイヴ邸へ連絡も無しに、しかも夜更けに人が来るはずなく。来るとすればそれは歓迎したくないお客様。セバスチャン不在の今、屋敷を守るのはもちろん彼らの役目というのは言わずもがな。
普段の雰囲気は息を潜め、屋敷を守る者としてバルドが的確に指示を飛ばし、それに従いフィニアンもメイリンも部屋を出ていく。そして自分の番はまだかと待っている***に告げられたのは短い言葉。

「嬢ちゃんは部屋にいてな」
『え?でも!』
「俺らよりも早く気が付いてくれたのには感謝してる。けどな、子どもは寝る時間だ。いいな?タナじい、後は頼んだぜ」

***が反論する前にバルドは***の頭を軽く撫でると、自身の持ち場に向かうために部屋を出て行った。
残された煙草の香りに***が不満げな顔をする中、声を掛けてきたのは同じく部屋に残っていたタナカさんだった。

「不満が顔に出てますよ」
『…だって』
「私も戦えるのに、参加しないのはおかしい。ですか?」
『…うん』

さらりと言いたいことを言いのけたタナカさんに驚きつつ、***は素直に頷く。
相手の能力は判らないが、数だけで考えてしまえば5:3で向こうの方が勝っている。そこに***が入れば5:4と差は縮まる。それに何より自惚れではないが、***自身の戦力はそれなりにあると思っているし、仕留めろと言われたら出来るつもりでいる。
そんな***の考えを知ってか知らずか、タナカさんはお茶を一口飲むと静かに口を開いた。

「侵入者を撃退する。それはあなたの役目ではなく彼らの役目だからですよ」
『…』
「もしあなたが坊ちゃんから屋敷への侵入者を撃退せよという命令と共に帰ってきたのであれば、何も申し上げることはありません。彼らと共に行きなさいと送り出していたでしょう」
『で、も…』
「しかし私がセバスチャンから受けた電話にそのような内容は一切含まれておりません。つまり今のあなたは屋敷の一住人と言うだけ、ですからそんなあなたを危険にさらすわけにはいかないのですよ」

判っていただけますか?と湯のみをテーブルに置くと、タナカさんは腰を屈めて***と目線を合わせて、優しく諭す。渋々とだが***が首を縦に振れば、タナカさんは顔の皺を深くさせながら***の頭を撫でた。

『ねぇ。3人が出て行ったけど、タナカさんはどうするの?』
「私は万一に備え、エリザベス様の傍に控えておりますよ。彼女の身に何かあれば、侯爵家の方々に向けるお顔がありません」
『そっか…。そうよね…』

ふむ…と考え込む***の頭の中で屋敷の図面が広げられる。
今の言葉からエリザベスとタナカさんの位置はほぼ一緒と見て良いだろう。そして先ほどのバルドの指示から3人の場所を推測し、さらには向かってきている侵入者の位置も予測する。
その結果生まれたある可能性に***は楽しげに口を緩めた。

『ね、タナカさん』
「…年寄の勘が耳を貸すなと訴えていますが…何でしょうか?」
『私は命令されてないから行っちゃダメなのよね。でも“偶然”出会っちゃったら、当然抵抗してもいいのよね?』
「……。偶然ながら仕方ありませんが、偶然である以上窮地に陥っても誰も助けてくれない可能性がある事を忘れてはいけませんよ」
『はいっ!』

最早満面の笑みとなった***とは反対にタナカさんの笑みが曇る。
しかし長年の人生経験がこうなった子どもを止めることは容易ではないと理解していたのと、彼自身***の戦闘面が一般人より上なのは聞いていた為、万一の可能性だけを伝えて、その後ろ姿を見送る。
そして時計を確認すると部屋の隅のある場所に話しかけた。

「バルド、聞こえますか?」
―タナじい?緊急事態か?
「はい。***が好戦的に飛び出していきました」
―何だって!嬢ちゃんが?!
「私はエリザベス様の傍を離れることが出来ません。ですから常に状況に気を配っていてください」
―おう!

反響した声に焦りの色が出ていたが、彼らもプロ。咄嗟の事にも臨機応変に対応できなければファントムハイヴ家使用人失格だろう。しんと静まり返ってしまった部屋の中、自身の役目を全うするためタナカさんも落ち着いた足取りで部屋を後にした。

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