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(1/3)

『……!!』

ふっと引っ張られたように***の意識が急上昇する。
慌てて状態を起こせばバサリと毛布が落ちるが、気に留めず周りを見渡せば、見慣れない部屋。
目の前にはうつぶせで眠り込んでいるソーマ。
そして横を見て、ここが誰の部屋で何故この場にいるのかを思い出した。

『…、シエル…』

息を押し殺しながら傍により、耳を澄ます。
すーすーと落ち着いた寝息に***はそっと胸をなで下ろした。
咳き込んだ後に聞こえた苦しそうな音は聞こえない。
あの薬湯が効いたのかなぁ…と思いだして、一緒にあの苦さまで蘇って思わず顔を顰めながら元いた場所に戻る。

『…おつかれさま』

それは目の前で眠りこけるソーマに対して。
邪魔するだけかと思いきや、意外にもソーマは熱心に看病していた。
こまめにシエルの寝汗を拭い、額に乗せたタオルを絞り直し、咳き込んでいないかと気に掛ける。
その働きぶりは思わず***が『…私いる?』と尋ねてしまった程だった。(ちなみに一人じゃ寂しいだろう、と言われたため今ここにいる)

『……』

カーテンから光が漏れていないため、まだ夜は明けていないらしい。けれども突然覚醒してしまった***の意識は再び睡眠に落ちることを拒んでいる。
だからと言って部屋を歩き回ることも出来ないし、看病疲れのソーマを起こすなんて事ももっての外。
ふぁ、とそれっぽく欠伸をして、目を擦るがやっぱり眠気がやってくる気配はない。
どうしようかなぁ…と考えながら、床に落ちた毛布を頭から被りベッドに突っ伏す。
目を瞑り、頭の中を空っぽにする。しばらくすれば、寒さに弱い体は意識よりも忠実に睡眠を求め始めた。
















―……よう……ね

―……も…です……より……い


今度は緩やかに覚醒し始めた意識の中で耳に入ってきた囁くような会話。
その声の主を判別する前に***はノロノロと頭を上げた。

「おや、起こしてしまいましたか?」
『…執事さ…?』

起き抜けの回らない頭で紡いだ言葉にその人は***に両手を伸ばし、その意味をぼんやりと理解した***はされるがままにその身を預ける。
耳元で聞こえる会話をBGMに再び***が眠りに落ちそうになった頃、不意に乱入した声にそれは遮られた。
何事かと黙って耳を傾ければ、どうやらソーマがアグニとしてセバスチャンに意見を言っているようだった。

(…なぁんだ…)

聞いていれば大した内容ではなさそうだと、その会話をBGMにしようと思ったその瞬間、突如出された自分の名前に***の体がピクリと反応した。

「それに、***もだ。俺はあいつとはそんなに長い時間いないが、大人しすぎるし、自己主張しなさすぎる。もっと甘やかしてやれないのか?大体、今回の無断外出を***にすら伝えてないってどういう事だ!?いつ帰ってくるか判らないお前らを待って、***はずっと寂しい思いをしてたんだぞ。…可哀想じゃないか。…だから、シエルも***もめいっぱい優しくして、甘やかしてやるべきだ。いいな、優しくしろ!!」

直後、ドタッと音がしたかと思えば、慌ただしい足音が遠ざかっていく。
うっすらと***が目を開けると生憎、その光景に背を向ける状態で抱かれていたので詳細が分からない。
けれども残されたらしいアグニがソーマに感極まって何かを叫んでいたのは聞こえてきた。





しばらくしてアグニとも別れ、廊下にはセバスチャンの足音だけが響く。
その足音が止まったかと思えば、聞こえてきたのはセバスチャンの声だった。

「…さて。先ほどのソーマ様のお言葉ですが、真意はどの程度でしょうか?きっと聞こえていたのでしょう?」
『……』

―あ、誤魔化せない。

それが素直な***の感想だった。
逃げる事を早々に***は諦める、けれどもちゃんと向き合う心構えも出来ていない。
だからセバスチャンの燕尾服を掴んでいた手にほんの少しだけ、力を入れた。

『…半分嘘で、半分本当』
「…と言いますと?」
『…ちゃんとお出かけの理由は覚えてたの。でも、ソーマに言えない理由だから知らないって嘘ついたの。それで、後は、その…』
「その?」

簡単な言葉が言えなくて、***はぎゅっと目を瞑ってしまう。
その脳裏に過るのは***の肩を掴み強い視線でこちらを見つめるソーマの姿だった。


―でももけどもない!いいか?ちゃんと言うんだぞ?!


力強く投げかけられた言葉に答えてしまったのは自分自身。
ただ拒まなかったのはきっとどこかでその気持ちがあったから。
そう考えれば、すんなりと口は動き、言葉を紡いだ。

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