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―いったいどういう事だ!?

身分を偽り、サーカスに入団という名の潜入に成功したのが昨日の事。
そして不本意な芸名を貰い、思いもしない人物と再会してしまい、らしくないなりに集団生活を送り…と僅か48時間にも満たないのに、シエル自身の疲労がたまるのが先か、それともサーカスの尻尾を掴むのが先かという危険な綱渡りは思わぬチャンスが転がり込んでいた。

それと同時にアクシデントも転がり込んできたが、折角のチャンスを逃すわけにはいかないとセバスチャンに指示を出し、シエル単独でテントに潜入に動いたのが19時20分。
途中さらにアクシデントが起き、、一度セバスチャンと合流し僅かながら情報を手にしたのが19時50分過ぎ。
時間だというセバスチャンを振り切り、テントを移動したその結果、思いもしないものを見つけてしまったのがほんの数秒前。

「何故…こんなものが…」

思わず握りつぶしたい衝動に駆られてしまうが、それは潜入の証拠を残すことに繋がるのでぐっと堪える。


“笛吹きの息子 トムより”


ジョーカーのテントで見つけた1通の手紙。入っていたのは2枚の紙。
1枚目に書かれていたのはシエル自身の事。フルネームに生年月日、何処に住んでいるか等など。
全体的に情報が曖昧な感じがするのは否めないが、それでもシエルと面識がなくともこの紙だけでシエルに辿り着けるだけの正確さはあった。
その1枚目の内容だけでも十分衝撃的だったが、2枚目の内容にシエルは思わず目を疑ってしまった。
名前の記載はない。けれど東洋の生まれで黒髪に黄色の瞳、年齢に比べ幼い外見。
いくらイギリスが広いと言え、こんな条件にあてはまる人物シエルは1人しか思い浮かばない。


「これは…***の事か?」


一瞬かつて回収した資料の内容が頭をよぎり、慌てて内容に目を通すが“その手”の情報はたったの1行で「言葉一つで敵にも味方にもなる」としか書かれておらず、肝心の言葉には全く触れられていない。
しかしその1行がこの人物が***を示しているという揺るがない証拠になった。


―何故だ!?何故僕と***の名前がこんな所に!?まさか正体がバレているのか!?


自身と***の事が書かれた紙を手にシエルは僅かな時間で思案する。
けれども時間を取りすぎた為、既に今日の公演が終わったことに気が付かない。


―しまった!!一軍のメンバーが戻ってきた!


近づいてくる話し声。その意味を理解すると、シエルは手紙を元の位置に戻し気付かれないようにそっとテントを後にした。
その後、一軍メンバーに見つかりそうになるも、同居人の機転とシエル自身のとっさの演技で何とか切り抜け、やっとの思いでセバスチャンの待つテントにたどり着いた…はずだった。


“3cm”


その僅かな踏み込みで投げられた言葉に思わずカチンとしたシエルはセバスチャンを連れて再び寒空の下、テントの陰にいた。

「――で、僕だけじゃなく***の事も書かれた手紙を見つけた。僕の生い立ちほど詳しくはないが、それでも***と特定するには十分だ」
「…***も、ですか?」
「あぁ。名前の記載はないが、間違いない。手紙の差出人は“笛吹きトムの息子”」
「“笛吹きトムの息子”?」
「マザー・グースの登場人物だ。なんの意味があるかはわからんが…ケホッ…そして封筒には馬の刻印とKのイニシャル」
「では私が見た物と一緒ですね。シーリングはふつう本人や家紋を象徴するモチーフと頭文字が彫られます」
「ああ」

そのまま自身の推察を語るシエル、その合間合間に入る咳き込みと、次第に酷くなる苦しげな呼吸音。
その異変にセバスチャンが気が付いたとき、すでにシエルの体が限界を超え、悲鳴を上げた。


「喘息だね」


医療用のテントに担ぎ込まれたシエルはそう診断を下された。
先生曰く、治っていても急激な寒さやストレス、風邪のときにぶり返したりする、との事。
熱に浮かされ虚ろな中、医者からシエルに告げられたのは絶対安静の4文字だった。



同時刻、一軍のメンバーたちはスネークからシエルとセバスチャンの侵入の報告を受けていた。
彼らの出した結論は“父さんに相談する”というもの。



真夜中、ゆっくりと事態が動き始めていた。







その頃の彼ら   END

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