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「#エロ」のBL小説を読む
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(1/4)

人の行き交うロンドン市内。
その喧騒をBGMに***は一人、馬車の中で買ってもらったばかりの本を読んでいた。
題して「自称エンターテイナーの私が教える世界のエンターテイメント」
久しぶりの「自称○○の私」シリーズ新刊に***の指は規則正しく、丁寧にそのページを捲っていく。

『…わぁ!』

文字だけではなく、時折イラストや写真を混ぜての説明に***の目の輝きは止まらない。
しかし、わくわくしながらページを捲ろうとした***の読書の時間は馬車の扉が開く音で中断される。
そしてどこかに出かけていたらしいシエルとセバスチャンが乗り込んできた。

『あ、おかえりなさーい』
「あぁ、ただいま」
「お待たせいたしました」
「セバスチャン、さっきの話の続きだが表の世界ではそうかもしれんが、裏の世界では既に…という可能性もある」

***との会話もそこそこに腰を下ろし杖で御者に合図を送るとシエルは足を組み、手紙を1通取り出す。
その手紙の主は女王で、先日カリーの品評会でシエルに届けられたものだった。

内容は今度ロンドンに来る移動サーカスが立ち寄った先々で子供たちが次々と姿を消しているという事、
警察が全力で捜査していても見つからず、真夜中に忽然と消えてしまうという。
まるでハーメルンの笛吹きに連れ去られたような今回の事件に一刻も早く、子供たちが家族のもとに帰って来れるよう願っているという番犬としての仕事の依頼。

『……』

折角本の事を言いたいのにどうも口を開いて良い状況ではない、と判断した***は大人しく視線を本に戻す。
おまけにシエルの虫の居所がよくないのか、俄か溢れ出す不機嫌なオーラから身を守るように本を盾にして***は外からの視線を完全にシャットアウトしてしまう。
しかし馬車に揺られること数分、見えてきた景色に***の機嫌は僅かばかり上昇する。
そして馬車はある建物の前で停まり、今度はシエルとセバスチャンだけでなく***も下車した。

『ねぇ、いい?開けてもいい?』
「あぁ」

ここはそんなテンションが上がる場所でもないだろう…?というのがシエルの本音だが、***の場合はそうではないというのは判っているつもりなので、シエルは見るからに嬉しそうな***のお願いに素直にOKを出す。
その瞬間、視界の隅に映ったセバスチャンが僅かばかり眉根を寄せた気がするが、ほんの一瞬だったためシエルは気にすることなく***が開けてくれた扉をくぐり、相変わらず薄暗い店内を床に置かれた蝋燭を蹴飛ばさないように注意して歩いていく。

「いるか?葬儀屋」
「……ヒッヒ…よぅ〜〜〜〜こそ伯爵…」

歩いてしばらくすると不意に聞こえた声と共にゴロゴロと音を立て、背後から転がってきた頭蓋骨。
驚くシエルの横を転がりぬけ、頭蓋骨は並べられた位牌に勢いよくぶつかった。

「やっと小生特製の棺に入ってくれる気になったのか〜〜い?それとも今日も***のお守かな〜〜?」
「お前…」
「ヒッヒッ…、まぁ、お座りよ。丁度クッキーが焼けたところさ」

振り向いたシエルとセバスチャンの視線の先、頭蓋骨を片手で玩ぶ葬儀屋とそのもう片方の手で頭を撫でられている***の姿。
その光景に何かを言う気も削げてしまい、葬儀屋に勧められるがまま座席(と言う名の棺)に腰を下ろした。
***はと言えば葬儀屋に手を引かれ、そのまま葬儀屋の膝の上へ。










「―子供の死体ねぇ…」
「表の世界では行方不明扱いで、遺体等は発見されていないそうです」
「裏の世界じゃ子供の死体なんか日常茶飯事だからねぇ…。伯爵もよ〜〜〜く知ってるだろ?」
「……。資料は持って来た。その中にお前が片付けた子供はいるか?」
「ん〜〜?***はちょっと向こうに行ってくれるかい?」
『はーい』

シエルの言葉にセバスチャンが何処からともなく取り出した資料を差し出し、代わりにカウンターの向こうから回ってきた***に手を伸ばす。

『…?』

手を差し伸べられたので条件反射でその手を掴んだが、思いのほか握り返された力が強くて***は首を傾げる。
少なくとも何かセバスチャンの機嫌を損ねるような事をした記憶はない…はずなのだけど。
セバスチャンを見上げても、その紅い瞳は葬儀屋を見ている為に***は映っていない。
そして手を引かれながら葬儀屋を見ても彼は渡された資料を眺めている為、***の視線には気付いてくれなかった。

「さて。ど〜だったかな〜いたかなぁ〜〜。なんだか面白いモノを見れば思い出す気がするなぁ〜〜。判ってるだろ、伯爵…小生にアレをおくれよ…」

アレ、と言う単語にシエルが難色を見せる。
アレと言われたら、アレしかないのだから。

「極上の笑いをさァ〜〜。そ〜〜したらなんでも教えてあげるヨ〜〜」

予想通りの言葉と共に迫ってくる葬儀屋にシエルは若干身を引きつつ、セバスチャンの名を呼ぶ。

「あれェ?今回も彼に頼っちゃうのかい〜?ぐふふっ、伯爵は執事君がいないと何も出来ない子なのかなぁ〜?
 ま、小生は面白ければ何でもいいけどね。それか、***を明日まで貸してくれても良いよぉ〜?」
『え?』
「!!」

その葬儀屋の言葉がシエルの脳裏に街屋敷での記憶を呼び起こした。


お前は俺がいないとダメなんだな!!
しょうがない奴だな〜!俺のこと兄者って呼んでもいいんだぞ

ハハハハとシエルの脳裏で笑うのは先日“街屋敷の管理”と言う名目で本邸から追い出したソーマ。
(因みにそのソーマこそシエルの馬車内での不機嫌オーラの原因だが、***は知るはずもない)
そしてシエルが選んだ選択肢は1つ。

「僕がやる」
「やるんですか?」
『だ、だいじょうぶなの?』

かけられた言葉に返事もせず、シエルは腰を上げる。

「お前は***を連れて出ていけ。絶っっっっっっっ対に中を覗くな。***にも覗かせるな、命令だ」

そして通常の無愛想な顔+不機嫌+苛立ちを前面に押し出した表情で、怒気迫る勢いでそう言った。
命令と言われてしまえばセバスチャンが返す言葉は一つしかなく、出け行けといわれたら***も素直に従うしかなかった。

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